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弁護士田島正広の“立憲派”ブログ

田島正広弁護士が、注目裁判例や立法動向、事件などを取り上げ、法の支配に基づく公正な自由競争社会の実現を目指す実務法曹としての視点から解説します。

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ネット上の名誉毀損と表現の自由(1)~ある裁判例の問題提起

1 ある裁判例の問題提起

 平成20年2月29日東京地方裁判所において,ネット上の名誉毀損に関する新たな判断基準を伴う判決が言い渡されました。この事案は,刑事事件であり,ラーメンチェーン運営会社に対する名誉毀損罪の成否が問われた事件です。裁判所は故意がないことを理由に被告人を無罪とする判決を言い渡しました(その後,検察側が控訴)。

 ここでは,表現行為が名誉毀損行為であることを認め,かつ真実性・相当性の証明のいずれにも成功していないことを認定しながら,(1)被害者側に誘発的な言動があったことから,ネットの利用環境と能力がある限り被害者側に反論を要求してもよいこと,並びに,(2)個人利用者のネット上の発信情報の信用性の低さを理由に,「加害者が,摘示した事実が真実でないことを知りながら発信したか,あるいは,ネットの個人利用者に対して要求される水準を満たす調査を行わず真実かどうか確かめないで発信したといえるときにはじめて同罪に問擬するのが相当」と結論づけて,被告人の故意を阻却しています。

※事件の詳細は,弁護人を務められた弁護士紀藤正樹先生のブログとそこからのリンクをご参照下さい。
→ http://kito.cocolog-nifty.com/topnews/2008/02/post_d3c4.html

※真実性・相当性の証明
 刑法上は,表現行為が他人の名誉を毀損する場合であっても,(1)公共の利害に関し,(2)公益目的で,(3)真実を語ったことを立証できた場合には,犯罪が成立しないものとされています(真実性の証明,同法第230条の2)。これを前提に,判例上,真実であることが立証できずとも,表現行為が(3)’確実な資料・根拠に基づくものであることを立証できた場合には,故意がないものとして名誉毀損罪は成立しないものとされています(最大判昭和44年6月25日,相当性の証明)。
 この考え方は民事上も採用され,上記各要件を立証できた場合には,不法行為が成立しないものとされています(真実性・相当性の抗弁)。


2 裁判例の問題点

 なるほど,真実性の証明・相当性の証明という法理論が,どこまでネット上の表現行為の特性に対応しているかについては議論の余地がないではなく,これまでもその硬直性が指摘されてきたところでもあり,先験的に従前の判例理論の枠内だけで議論をすべきとまでは言えないでしょう。

 しかしながら,誘発的言動があれば被害者に反論を要求できるというのであれば,確実な資料・根拠のレベルに至らない程度の「怪しさ」や「疑問」をもって行われる表現行為までが,被害者の名誉を毀損しても表現行為として保障されることになりかねません。ネット上の表現行為は信頼に値しないとの理由で,そのような乱暴な表現も許されるというのであれば,それはネット上の表現の自由の保障を拡大するというよりも,むしろネット上を無法地帯ならしめるものでしかないというべきです。

 また,同判決が犯罪の成立を阻却する根拠も甚だ不明瞭です。解釈上相当性の証明の理論が登場したのは,刑法の明文規定である真実性の証明の規定(刑法第230条の2)をベースとしつつ,真実であると立証できなかった場合でも,それに準じる程度に確実な資料・根拠に基づいていた場合には,加害者には真実性の証明が可能との認識があり,名誉毀損行為の認識はあっても犯罪成立の認識がなかったことに由来します。

 これに対して,本判決は,確実な資料・根拠がなく,不十分な根拠に基づいて勝手に真実と誤審していても,故意がないといいます。このような論理が許されるのであれば,それは真実性の証明のレベルから甚だしく乖離した「相当性」(正確には相当性の証明にいう相当性とは別の概念か?)を許容することになりますが,それは真実性の証明の規定を根拠とした解釈論として限界を超えるものではないでしょうか。すなわち,それはもはや立法論の域に達していると評すべきものではないでしょうか。

 このような点から,私は,この判決が示した論理には疑問を感じずにはいられません。確かに,ネット上の表現行為を萎縮させないための配慮は必要でしょう。しかし,表現行為についての責任追及を確実ならしめる配慮を同時に進めることなく,表現行為の責任を軽減する解釈ばかりを先行して導入することは,まさにネット上の名誉毀損の被害を拡大するものでしかないというべきではないでしょうか。その意味で,総合的な施策の導入の中での立法的解決が強く望まれる分野と思っています。


3 雑感

 最後に,本判決を観る限りで申し上げれば,刑事法の謙抑性に照らして,そもそも名誉毀損罪で起訴すべき事案だったのかどうかの点で,疑問を感じないではありません。判決のやや無理な論理も,結果を先取りして無罪とするために工夫された手法のように思えてならないところです。


弁護士 田島正広  http://www.tajima-law.jp/
                       

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