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弁護士田島正広の“立憲派”ブログ

田島正広弁護士が、注目裁判例や立法動向、事件などを取り上げ、法の支配に基づく公正な自由競争社会の実現を目指す実務法曹としての視点から解説します。

安保法制の「必要性」と立憲的コントロールの「不可欠性」

安保法案については,政府与党の国際環境の変化に基づく「必要性」論で成立に向けて進んでいますが,私は改憲派ではありますが,立憲主義の堅持の立場からこれに異を唱えます。

ここでも度々論及した,満州事変以後の日中戦争における軍部佐官クラスの現場主導での軍事行動は,植民地を持たざる遅れた帝国主義国家が,経済大恐慌の時代に列強との覇権争いを勝ち抜く上で「必要」との論理で行われて来ました。この流れは,大正デモクラシーの中,民衆の期待を背景にマスコミも軍部賞賛の論調一色となって,結果中央政府によって追認されることになります。明治憲法下でも機能した時期があった人の支配による政治的コントロールが,「必要性」論の前に押し流され,天皇の名の下に軍部が暴走することをもはや誰も止められなくなります。そして遂に太平洋戦争に突入し,敗戦の悲劇を迎えるに至りました。

この歴史を振り返るならば,過去を反省するためには,過去の軍事行動の失敗を謝罪するだけでは何らの解決にはなっていないことを知るべきです。むしろ,一時の民意だけでは押し流すことの許されない政治権力に対する堅固な歯止めこそが「不可欠」なのであり,それをしっかりと堅持することこそが過去の失敗を二度と繰り返さないことの最大の保障であり,それこそが反省としてあるべき姿であるというべきです。

ところで,特定秘密保護法により,高度の軍事情報から国民は遠ざけられることになりました。それを前提に政府が米国の軍事行動が「必要」だと判断したとの根拠づけで集団的自衛権行使に至るとなれば,もはや事態に対する国民の冷静な判断は困難であり,民意による軍事行動の抑止は機能の余地を失います。どこまでの軍事行動が可能だがそれを超えては一切許さないという一線を画すことがおよそ困難になるのではないでしょうか。

私は政府の展開する「必要性」論の全てを否定するつもりはありません。ですが,必要ならすべてよいという短絡的な発想は過去の負の歴史の繰り返しを必ずや招来することでしょう。過去においては領土・植民地獲得が目的でしたが,現代は,民族自決を大前提としながら,傀儡政権樹立による経済的利権獲得を目的として軍事行動が行われています。

この点,米国は10年に一度は石油利権等の国家的動機付けの下で大きな戦争をして来た国家です。キリスト教国家として,イスラム原理主義と真っ向対立してきた国家でもあります。これに対して,私たちの日本は,戦後民間努力を基礎として,経済基盤を発展させてきた国家です。宗教的にも寛容であり,核兵器唯一の被ばく国でもあり,世界平和に向けて独自の外交力を発揮する余地は多分にあります。それにもかかわらず,米国に対して集団的自衛権を行使するとなれば,その外交の方向性は自ずから米国のそれに追随するのみとなります。果たしてそこまでしなければ,対中国,対北朝鮮で我が国の独立を維持できないものかどうか。これまでの日米安保体制は十分に機能してして来ているのではないか。ベトナムやフィリピン,インド等との外交上の連携での対中国囲い込みは相応の意義と効果を有するのではないか。それでも達成されない「必要性」とは何なのか?およそ説明が尽くされているとは思いません。

最後に,安倍首相が数か月前にテレビで引き合いに出した「母屋が攻撃されたら,離れの日本が黙っている訳には行かない」という話について,反論します。そもそも日本が独立国なら,いかに日米安保条約があるとはいえ,それは「離れ」などではなく,最も親しい「隣人」に過ぎません。安保法制で対等の独立国として議論をするのであれば,まず昭和の不平等条約たる日米地位協定を改訂するべきです。ドイツはそれを行いましたが,日本はどうしてもできないということでしょうか。我が国がそもそもその提案すらしていないというのはどのような考えがあってのことでしょうか。沖縄で少女が米軍人にレイプされても,日本の刑事司法が及ばないような法制はあってはなりません。それを運用でカバーするといっても,運用は「必要」があれば変更されるものです。そのような対応を受ける国が対等の独立国家でしょうか。沖縄問題は,基地負担に伴う犠牲の一切を経済的支援を代償に沖縄に押し付けたままであるが故に,解決の糸口すら見いだせないのではないでしょうか。

こうして考えると,「離れ」に住んでいるのは,母屋のご主人様の言いなりで生計を立てている方であるかのように思えてなりません。ご主人様に嫌われたら,およそ生きていけないことでしょう。ですが,そのような前提はおよそ耐え難い屈辱的な論です。米国のための安保法制を通す前に,この国の将来像をしっかりと描き,独立国家としての存立を念頭においた議論を国家戦略として立てるべきです。それすらなく,短絡的な米国追随を行うことで,日本の誇りすら喪失していることを思い知るべきです。
                                       
弁護士 田島正広

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