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弁護士田島正広の“立憲派”ブログ

田島正広弁護士が、注目裁判例や立法動向、事件などを取り上げ、法の支配に基づく公正な自由競争社会の実現を目指す実務法曹としての視点から解説します。

被災ローン減免制度及びその運用改善の必要性

 東日本大震災の法律支援活動は,各方面で展開されていますが,このところ私が積極的に関わっているのは津波被害等による二重ローン問題です。被災者が津波被害を受けた不動産の住宅ローンを負ったまま,新たな債務負担等で生活再建に支障を来す,いわゆる二重ローン問題から被災者を救済するため,一般社団法人個人版私的整理ガイドライン運営委員会(以下、「ガイドライン運営委員会」という)の下,昨年7月,「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」(以下「被災ローン減免制度」という)が制定され,同年8月,これに基づくADRによる債務整理の運用が開始されました。

 この制度は,債務者にとっても,保証人への請求や信用情報機関への登録回避が可能となる一方,金融機関においても債権放棄の際無税償却ができる有益な制度であり,自由財産の範囲の拡張(99万円→500万円)等,被災者に利用しやすい制度となるよう運用改善がなされています。

 しかし,それにもかかわらず,同制度の利用件数は非常に伸び悩んでおり,同制度による申出件数は2012年11月16日現在で417件(うち東北被災地403件),これによる債務整理の成立件数は,わずかに133件(うち東北被災地124件)に留まっています。

 その原因として真っ先に挙げられるのは,制度の周知不足です。金融機関が制度周知に非協力であっては,この制度の利用は進みません。弁護士会としても金融機関による一層の積極的対応と金融庁によるさらなる監督を求める必要があります。また,ガイドライン運営委員会,関連する地方自治体,さらには被災者支援に当たるNPO団体等との連携による周知活動も重要です。

 また,制度それ自体の問題点も相談現場からは諸々指摘されています。ガイドライン運営委員会の構成が金融機関寄りではないか,あるいは,その予算が十分でないことも相まって,被災地でのスタッフの活動が消極的なのではないか。また,高台移転事業の遅れが,被災者の生活の再建全般に支障を及ぼしてはいないか,金融機関が被災住宅の抵当権抹消に協力してくれるとしても,既存債務そのものが残ったまま,新たに購入する住宅の抵当権に合算されるようでは二重ローン問題の解決とはなり得ないのではないか。さらには,保証人は制度上免責されない場合が定められているところ,どのような事例で免責されたのか成立事例が数件しか公表されず,申立に萎縮的効果を及ぼしているのではないか,等々です。こうした制度及びその運用上の問題の改善抜きには,被災ローン減免制度の利用を推進することは難しいと言わざるを得ません。

 そこで,私が活動に参加している東京弁護士会法友会では,次の宣言を先般決議しました。

 「被災ローン減免制度及びその運用の改善に向けて」

 宣言文策定に当たっては,我々の視点からの問題提起はもちろんのこと,被災地の報道関係者,最前線で被災者支援活動に当たっている先生方やボランティア関係者等,多くの皆さんにこの問題に関する実情を確認させて頂き,多くの貴重なご助言を頂きました。僭越ながら,宣言文策定に関わった一弁護士として,この場をお借りしてお礼を申し上げさせて頂きたいと思います。そして,この問題に関わる全ての皆さんにぜひこの宣言をご一読頂き,制度及びその運用改善を図って頂きたいと思うと共に,この宣言をより広範囲に周知して頂き,より多くの皆さんに問題認識を共有して頂きたいと思います。


弁護士 田島正広

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