弁護士田島正広の“立憲派”ブログ

田島正広弁護士が、注目裁判例や立法動向、事件などを取り上げ、法の支配に基づく公正な自由競争社会の実現を目指す実務法曹としての視点から解説します。

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原子力損害・第二次指針における懸念点

東京電力の福島第一・第二原発事故については、原子力損害賠償紛争審査会から本日までに原子力損害の範囲の判定等に関する指針が第二次指針・追補まで示されています。

東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針

原子力損害賠償紛争審査会

注目されるのは、風評被害について、踏み込んだ姿勢を示している点です。該当箇所を引用すると次の通りです(下線は筆者)。

「(指針)
Ⅰ) いわゆる風評被害については確立した定義はないものの、この指針で「風評被害」とは、報道等により広く知らされた事実によって、商品又はサービスに関する放射性物質による汚染の危険性を懸念し、消費者又は取引先が当該商品又はサービスの買い控え、取引停止等を行ったために生じた被害を意味するものとする。
Ⅱ)「風評被害」についても、本件事故と相当因果関係のあるものであれば賠償の対象とする。その一般的な基準としては、消費者又は取引先が、商品又はサービスについて、本件事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が、平均的・一般的な人を基準として合理性を有していると認められる場合とする。
Ⅲ) 具体的にどのような「風評被害」が本件事故と相当因果関係のある損害と認められるかは、業種毎の特徴等を踏まえ、営業や品目の内容、地域、損害項目等により類型化した上で、次のように考えるものとする。
① 一定の範囲の類型については、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害(Ⅳ)に相当する被害をいう。以下同じ。)は、原則として本件事故との相当因果関係が認められるものとする。
② ①以外の類型については、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害を個別に検証し、Ⅱ)の一般的な基準に照らして、本件事故との相当因果関係を判断するものとする。その判断の際に考慮すべき事項については、この指針又は今後作成される指針において示すこととする。
Ⅳ) 損害項目としては、消費者又は取引先が商品又はサービスの買い控え、取引停止等を行ったために生じた次のものとする。
① 営業損害
取引数量の減少又は取引価格の低下による減収分及び合理的な範囲の追加的費用(商品の返品費用、廃棄費用等)
② 就労不能等に伴う損害
①の減収により、事業者の経営状態が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合の給与等の減収
③ 検査費用(物)
取引先の要求等により実施を余儀なくされた検査の費用」

ここで、備考においては、次のような解説があります。すなわち、「少なくとも本件事故のような原子力事故に関していえば、むしろ必ずしも科学的に明確でない放射性物質による汚染の危険を回避するための市場の拒絶反応によるものと考えるべきであり、したがって、このような回避行動が合理的といえる場合には、原子力損害として賠償の対象となる。」

この点に関して、同審査会の中島肇先生の解説されたところによれば、規制値の低い牧草の出荷制限が課せられる地域においては、規制値が高いため出荷制限には至らなかった他品目の農作物も、放射能汚染を懸念されて市場が買い控えることがむしろ合理的であり、したがって、当該別品目の農産物が本来の対価で販売できないことによる減収分なども風評被害の対象となるとのことです。

中島先生が解説の際に言及された原子力損害の先例として実務上参照される名古屋高裁金沢支部平成元年5月17日判決においては、「数値的には安全でその旨の公的発表がなされても、消費者が危険性を懸念し、敦賀湾産の魚介類を敬遠したくなる心理が一般に是認でき」る場合には、通常損害として、(特別損害と異なり加害者側の予見可能性を要することなく)相当因果関係を肯定した訳ですが、上記指針はまさにこの理を本件にあてはめたものと解される訳です。評価が難しい風評被害について踏み込んだ指針という点で、被災者の方々の救済に資する指針としての一定の評価がなされるべき指針と思います。

ところで、指針を読んで非常に気になるのは、農林漁業の風評被害に関して、農林産物(畜産物以外のもの)、畜産物、水産物の3類型に分けて、風評被害が通常及ぶ範囲をそれぞれの類型の範囲内と見ている点です。原文によれば、次の通りです。

「(指針)
Ⅰ) 農林漁業において、本件事故以降、現実に生じた買い控え等による被害のうち、少なくとも次に掲げる産品に係るものについては、1Ⅲ)①の類型として、原則として本件事故との相当因果関係が認められる。
① 農林産物(畜産物を除く。)に係る政府等による出荷制限指示等(平成23年4月までのものに限る。)が出されたことがある区域(県又は市町村単位。以下同じ。)において産出された全ての農林産物(畜産物を除き、食用に限る。)
② 畜産物に係る政府等による出荷制限指示等(同年4月までのものに限る。)が出されたことがある区域において産出された全ての畜産物(食用に限る。)

③ 水産物に係る政府等による出荷制限指示等(同年4月までのものに限る。)が出されたことがある区域において産出された全ての水産物(食用に限る。) 」

この理によれば、ある地域で牧草の出荷が制限されたことによりトマトが売れなくなれば、相当因果関係のある損害となりますが、同じ地域の畜産物の出荷が何ら制限されていない以上は、その地域の牛が売れなくても、直ちには相当因果関係のある損害とは認定されないことになります。

図らずも、直近で牛について、放射能が検出された稲わらに起因する出荷制限が行われていますが、この段階に至るまでの間でも、東北産のA5ランクの牛がこれまでにないほど安くなっているとの情報が巷を飛び交っていました。すなわち、畜産物の出荷が制限されていなくとも、畜産物が売れない状況が既にあったのではないかと推測される訳です。同じことは水産物についても検討しなくてはならないように思います。

上記指針は冒頭部分で、指針で対象とされなかった損害を賠償すべき損害から除外するものではなく、今後検討すると言及しているのですが、この指針が果たす役割を考える時、果たして市場心理が農林産物の3類型間を超えて買い控えを起こさないことが通常なのかどうか、改めて検討を要するように感じます。


弁護士 田島正広

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