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弁護士田島正広の“立憲派”ブログ

田島正広弁護士が、注目裁判例や立法動向、事件などを取り上げ、法の支配に基づく公正な自由競争社会の実現を目指す実務法曹としての視点から解説します。

日中同盟の可能性と「価値」の共有

先日,ある自衛隊高官の方の講演を聴く機会に恵まれた。その方は,日米同盟を基軸とする現在の外交スタンスの10年後を語るに際して,様々な情勢分析を踏まえ,幾つかの選択肢を語られたが(もちろんそれを選択するのは政治家であることを前提としながらも),日中同盟の可能性,それも中国の影響力の大きい従属的なニュアンスの同盟の可能性をその一つとして挙げておられた。

講演中,外交とは利害,価値,行動を共有する関係であるとの話があり,講師は利害に力点を置いて日中同盟の可能性に論及していたのであるが,一法律家として私は価値の共有という観点をどうしても軽視することができず,違和感を隠せなかった。なるほど,私も中国人の親しい友人はいるし,中国4千年の文化には歴史や漢詩,食文化を始めとして傾倒するところは大である。だが,80年代の民主化機運を天安門事件で一掃して以降の現在の共産党政権と果たしてどこまで価値の共有ができるのであろうか。我が国はアジア有数の人権国家であり,民主主義国家のはずであるが,こと外交の場面になると,たとえ建前であってもこれらを口にすることがあまり得意とは思えない印象がある。中国との関係強化は,こうした基本理念に立脚した価値観の共有が前提ではないだろうか。これらを大切にすることなく,経済力だけで飲み込まれてしまうような朝貢外交だけはしてほしくないものと痛切に感じる次第である。

弁護士 田島正広

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司法修習生の「貸与制」と職業選択の自由

司法修習生の給費制継続問題については,1年間の猶予という形で先般国会において暫定的な処理がなされました。裁判所法自体は既に貸与制に改正されており,その実施期限の問題との位置付けです。

ところで,これまで給費制を維持する一方で,司法修習生の身分は国家公務員に準じる地位とされ,兼業禁止や守秘義務を負わされると共に共済組合への加入なども認められてきました。しかし,今回の改正においては,単に給費制を貸与制に改めるのみで,司法修習の本質についての議論があまり聴かれません。

そもそも貸与制においては,給与を受けることがなく,給与の対価となる労務の提供も予定されず,労働契約はありません。となれば,それは職務専念義務になじむものでもなく,兼業を禁止されるいわれもないように思えます。もとより,修習の実を挙げるためにそのような職務専念義務を維持する意味はあると思いますが,それが兼業禁止を伴うものとなるのは,真に違和感が残ります。せいぜい,努力規定程度の位置付けがよいところなのではないでしょうか(注)。

労働ではなく,単なる研修ということであれば,果たして兼業を禁止すべきなのかどうか。職業選択の自由に対する制限の合憲性の問題として捉えると,経済政策上の立法政策だけの問題ではないことから合理性の基準というよりはより厳格な基準で立法の裁量の幅を限定すべきように思います。その際,兼業禁止の緩和策としての修習資金貸与制度が,職業選択の自由の制限それ自体の合理性を担保するだけの説得力を持つのでしょうか。私にはどうにも腑に落ちないところです。


(注)
なお,修習の性質上守秘義務を課すことには全く異論はありません。


弁護士 田島正広

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