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弁護士田島正広の“立憲派”ブログ

田島正広弁護士が、注目裁判例や立法動向、事件などを取り上げ、法の支配に基づく公正な自由競争社会の実現を目指す実務法曹としての視点から解説します。

即独弁護士の業務基盤に観る逆転の発想

近時,司法修習修了後の就職がないとの話をよく耳にします。人づてに修習生の就職の世話の依頼をされることもありますが,件数が多過ぎてどうにもならないのが本音です。弁護士資格取得と同時に即独立する人を「即独」と呼びますが,そういう方はオフィスを構えることもできず業務が成り立たないとも聞きます。即独の場合,弁護士業務において重要な意味を持つ先輩から後輩へのノウハウの伝授の機会が不足しているという話は,弁護士であれば容易に理解してくれることでしょう。

ですが,果たしてこうした即独組に業務基盤確立のやりようはないのだろうか,というのが今日の問題提起です。一面的な例かも知れませんが,税理士さんはよく顧問先を回っています。立派な事務所を構えるケースもありますが,反対に自宅をオフィス兼用の場所として,基本的に顧客の下へ出向くケースもあります。これと対比した時,即独組が事務所を構えられなくて業務ができないという話には,弁護士は立派なオフィスを構える仕事という大前提があることに気付かされます。ここ数年,私は日弁連において中小企業関連業務の推進に取り組んでいるのですが,アンケートなどに関わっていてよく耳にしたのは,「弁護士は敷居が高く,事務所でふんぞり返っていて,自分からは出てこない」という意見です。なるほど,守秘性が最も高いのは自分の事務所ですし,資料も揃っている訳ですから,そこでミーティングすることには合理性はあるのですが,しかしそれはそれとして依頼者の下を回るという発想それ自体を忘れてはいないかというのが,今日の問題提起です。

 仮に,依頼者の下を巡回することを基本とすれば,立派なオフィスなどいらないことにもなります。面談室であれば,東京の場合は弁護士会館に立派な面談室があるので,そこでやればよいことでしょう。資料は弁護士会の図書館で十分です。電話も登録番号から携帯電話への転送をすれば十分ですし,依頼者には業務用携帯電話の番号を伝えれば済む話です。判例検索もノートPCからネットにつなげれば何も問題なしでしょう。オフィスが不要となれば,それを維持するための基本コストが要らなくなりますから,収入がそれ程なくとも生計を維持することはできることになるはずです。昔自分が独立した頃は,毎月の基本コスト分くらいの顧問先があることが,その前提と言われていましたが,そのような発想に立つ必要自体ないと言えるでしょう。

 そうは言っても,即独では先輩からのノウハウ伝授がないというのであれば,そこは弁護士会や派閥の出番なのでしょう。そういったところでの研修,さらには先輩と共同受任するような仕組みを推進することでノウハウの橋渡しをすることは,もちろんその伝授の機会として十分というつもりはありませんが,一定程度の役割を担うことができるのではと思います。

 弁護士会レベルでさらに応援することがあるとしたら,弁護士会館内で書証の写し作成やファクシミリ受信対応,その他事務所機能の一部サポートといった発想での対応の余地かなとは思いますが,基本は自由競争で臨むことが不可能な段階とまでは現時点では私は認識していません。ただし,即独弁護士同士でフリースペースの事務所を作ることが,弁護士の常駐という観点で制限されるのであれば,そこは制度設計を見直す必要があるかなと思います。すなわち,例えば即独組10名で事務員一人,コピー・ファックス機一台,フリースペース5席の事務所を作ったとして(席は早い者勝ち),それでは常駐しているとは言い難いと批判されるなら,そこは新しい形として支援する必要があるように思います。

 ところで,いったい誰が,携帯電話対応の巡回弁護士を選ぶのか,実際には立派なオフィスがないと顧客は選んでくれないのではないか?そういう疑問がすぐに頭に浮かびます。ですが,かゆいところに手が届くことが持つ優位性と,さらには基本コストがかからないことに基づく競争上の余裕は,実はそれ相応の競争力を持ちうるのではないかと私は思っています。経験のある弁護士は,既存の知識と感覚的にピンと来るところは優れているでしょうが,反対に新しい分野の開拓や大量に渡る事実調査などでは若手のエネルギーが勝る部分があるはずです。そうしたところも競争のしどころになるのではないでしょうか。

 翻って考えるに,こうした考え方の中には逆転の発想があることに気付かされます。すなわち,中小企業や個人顧客を相手にビジネスをする上で,自らが出ていくスタンスが重要性を持っているのではないか。即独弁護士は,好むと好まざるとにかかわらず,そのスタンスに依拠せざるを得ないのかも知れませんが,それは却って一つのチャンスでもあるように思うのです。なぜなら,立派なオフィスで業務している弁護士は,おそらく面倒くさがってそういった巡回法務をやりたがらないはずですから。「ピンチの中にチャンスあり」と言いますし,また「災い転じて福となす」とも言います。それぞれの時代においてチャレンジのあり方はあったし,これからもそうなのでしょうが,まさに現時点でのチャレンジのあり方が問われています。確かに,「昔は良かった。独立すれば事務所を持つことができた。今はもう・・・。」,などと言われるようにこれからはなるのかも知れません。ですが,それでも開拓の余地はあるはずです。即独弁護士には,ぜひ開拓精神をもって道を切り拓いてほしいと願うばかりです。

弁護士 田島正広

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