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弁護士田島正広の“立憲派”ブログ

田島正広弁護士が、注目裁判例や立法動向、事件などを取り上げ、法の支配に基づく公正な自由競争社会の実現を目指す実務法曹としての視点から解説します。

プライバシー保護法制のあり方

プライバシーの保護というと個人情報保護法を想起する方も多いでしょうが,同法はプライバシーの保護範囲を定めたものではなく,事業者に対する行為規制に止まります(注1)。保有個人データの開示の求めも本人側の請求権ではなく,開示に応じない事業者に対して開示を強制することはできないとの裁判例がある程です(注2)。その結果,同法上適法でもプライバシー侵害の不法行為(民法709条)が成立することがあり得る訳です。

この点,確かに個人情報保護法の立法趣旨は分かりますが,保護の対象である情報主体の「権利利益」がプライバシーと無関係と言うのはむしろ強弁であって,プライバシーとして何らかの保護を及ぼすべき場面であればこそ,事業者に対して行為規制を課しているはずです。したがって,プライバシー侵害の不法行為が成立する行為について,個人情報保護法上行為規制が全く掛からず,主務大臣の監督も及ばないことがあるとの結論は,法秩序全体の統一性からすれば,いかがなものかと思う次第です。

近時の各官庁のガイドライン改正では,この点が意識されています。例えば,弁護士法23条の2の照会請求への回答は,「法令に基づく場合」(個人情報保護法23条1項1号)として,一律に個人情報の第三者提供制限の例外とされるものの,回答に当たっては必要性と合理性の吟味を事業者に求める旨改正されています(経済産業省ガイドライン,金融庁ガイドライン)。

ただ,このような吟味を求めるだけでは,プライバシー侵害の惹起阻止には不十分なのも事実です。民事上正当行為とならずプライバシー侵害が成立する場面への行為規制が可能なように,「法令に基づく場合」を限定解釈するか,その旨法改正すべきと私は考えています。

そのような比較的小手先かつ実現容易な対応の先に抜本的なプライバシー保護法の制定という大きな解決策があると思います。ただ,ここまで来ると,プライバシーの定義,保護範囲の設定の仕方等について,議論は容易ではないかもしれません。今後の議論に引き続き注目したいと思います。


(注1)ちなみに同法は,個人情報を保護するためだけの法律ではなく,その利用の価値を認め,一定のルールの下で利用することを容認する側面を持っています。一定のルールの下で保護と利用の調和を実現した法律というべきです。

(注2)そうなると,開示に応じない事業者には,主務大臣の勧告,命令,最後は罰則の適用を期待するしかありません。もちろん,業法上の指導はあり得るでしょう。


弁護士 田島正広

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