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弁護士田島正広の“立憲派”ブログ

田島正広弁護士が、注目裁判例や立法動向、事件などを取り上げ、法の支配に基づく公正な自由競争社会の実現を目指す実務法曹としての視点から解説します。

ローン明細書誤発送事件に観る外部委託先管理の難しさ

八十二銀:ローン明細書、590人分誤発送

【 八十二銀行(長野市)は17日、カードローンの利用者向けに郵送する明細書について、590人分を誤って他人の明細書と同封し、本人以外に発送したと発表した。明細書には住所氏名、カードローン口座番号、取引履歴が記されていた。】

(17日・毎日新聞)

 まだ初期報道の段階ではありますが,外部委託先からの個人情報の漏えい事案は後を絶ちません。今回の漏えいは,ローン明細という信用情報であり,個人情報の中でも重要な情報に位置付けられるものです。その分銀行側には厳重な管理体制が期待されているだけに,残念な事案といえます。

 外部委託先の管理は,個人情報保護の分野における一大テーマであり,その選定から取扱い状況の報告授受,監督,さらには委託契約の終了に至るまで,委託元としての管理のあり方がガイドラインにもきめ細かく示されている訳です。今回の事案を通して,それらの諸点についての対応状況が改めて検証されることになるでしょう。

 この段階で若干気になるのは,今月12日に利用者の苦情で発覚した事故が,今日になって初めて公表されている点です。コンプライアンスの観点からは,不祥事の速やかな公表が求められますが,二次被害防止その他の理由で公表を先送りすることがどこまで合理性を持つかは,事案の内容にもよることではあります。もちろん,万に一つも不祥事の隠蔽などは許されないのであり,結果的にとはいえ外部の報道を受けて初めて謝罪したとなれば,コンプライアンス上誤解を招きかねず,あまり適切とは言いかねる訳です。こうした場合には,自社の信用への配慮ではなく,何よりも利用者の個人情報の保護の観点に立った判断が求められることになるでしょう。

弁護士 田島正広

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内部通報取扱いの難しさ

内部告発者の実名を会社側に通知、弁護士を戒告処分

【 内部告発者の実名を会社側に伝えたのは、秘密保持義務に反し、弁護士の品位を失う非行にあたるとして、第二東京弁護士会が、トヨタ自動車販売店グループの外部通報窓口担当の男性弁護士(35)を、戒告の懲戒処分にした。(中略) 
 (同会の)懲戒委員会の審査に先立ち、綱紀委員会は昨年1月、社員が実名通知を承諾した事実は認められないと判断し、弁護士を「懲戒相当」と議決した。これに対し、懲戒委員会は、社員が自宅待機を命じられた後、弁護士に抗議をしていない点などを挙げ、「社員は承諾していた」と、綱紀委員会とは逆の判断を示した。
 しかし、承諾に際して弁護士が、実名通知で起こりうる不利益を、社員に具体的に説明していないことなどから、「社員が自発的な意思で、会社に実名を通知して不正を調査するよう求めた承諾とは認められない」と判断、弁護士は「秘密保持義務に違反している」と結論付けた。】

(11日・読売新聞)

 この事件は,概要,会社の内部通報外部窓口担当の弁護士が社員からの内部通報を受けた際に,同社員の承諾なくその実名を会社に通知したとして懲戒請求を受けた事案です。

 記事では少々分かりづらいのですが,どうやら今回の認定では,間接事実から実名開示に関する社員の承諾を一応認めつつも,弁護士が社員に起こりうる不利益の具体的説明をしていなかったことから,積極的な実名通報による調査依頼の趣旨とは認められないとしたもののようです。

 内部通報をした社員が会社から不利な取扱いを受けるケースは,これまでにも報じられています。コンプライアンス維持のための自浄作用の契機を社員に期待するという建前とは裏腹に,実際には,それを否定的消極的に受け止める企業も散見される訳です。そんな中,外部窓口を担当するに当たっては,極力公正な第三者として通報者に不利益が及ばないように保護を図りつつ,通報事実の調査を進められるよう配慮していかなければなりません。この点,会社の顧問弁護士の立場となると,会社から当該通報事案に関する相談を受ける可能性もあるだけに,実際にどこまで通報者から事情を聞き出すことが許されるのか,将来の利益相反の可能性を意識すると,微妙な問題が残ることになります。

 会社と顧問関係にない外部の弁護士であれば解決する問題かといえば,それでも,会社から対価を得ているという形式は残っていますから,やはり通報者の方の立場に立った通報取扱い,特に相談業務が容認されるのかには疑問が残ることになります。もとより,弁護士以外の専門会社であれば,弁護士法上相談業務を受けることは許されません。

 私の場合は,いずれのスタンスの場合であるにせよ,公正な第三者として通報をお受けするに際し,相談はお受けしないという一線を画しているのですが,通報者からすれば,もっと親身になってほしいというのが本音ではないかと思います。この辺の線引きは,明確な答えが出ている分野ではないだけに,なかなか難しいところです。

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若手弁護士の研修会での講演

 昨日,第一東京弁護士会新進会と東京弁護士会法友全期会共催の若手弁護士向け研修会にて講演してきました。いずれの会も,各弁護士会内部の若手弁護士で構成される会派であり,内部研修や外部向け法律相談会,著作物の刊行などに積極的に取り組んでいます。弁護士会を異にすることから両会派はこれまで研修を共催したことがなかったということですが,今回は両会派から150名近くの出席者を得て,大盛況のうちに開催されました。題して「企業をとりまく新しい法制度の基礎知識と顧客対応」。内部通報,個人情報保護,事業承継の各分野を採り上げて,その概要の説明と,顧客対応上の留意点などについて知見を深めるものであり,私の担当は個人情報保護の分野でした。

 その際にもお話ししたことですが,この法律の趣旨を問うと,えてして「個人情報を保護するものでしょ?」と言われてしまいがちです。「それでは50点しかつかないんですよ」,とお話しすると,意外とばかりの表情をされるものですが,この法律は(第1条の目的でも書かれているのですが),一定のルールに基づく個人情報の利用を認めて,その保護と利用のバランスを図ったものであり,それゆえにこそ,具体的な場面において,どの程度の保護が必要かに際してバランス感覚が問われることになります。安全管理措置としてどの程度の対応をすればよいのか,などはその典型場面ということになるでしょう。

 実は情報に関する法分野は,全てこの対立軸での調整が図られています。例えば,著作権。著作権の保護を完全にしようと思ったら,著作物の原盤を分厚い金庫に入れて誰の目にも触れさせなければよいのですが,それでは読むことも聴くこともできないため,著作物の存在意義がなくなってしまいます。いかにして違法コピーを抑止し,著作権者の利益を保護しながら,一般の利用を推進していくかが,そこでのテーマとなるわけです。この視点をしっかり持っていただくと,一時期問題になった個人情報の過剰な保護など容易に回避することができるというものです。

 法律家の法律家たるゆえんは,このバランス感覚に基づく妥当な利益衡量ができる点にあると私は思っています。弁護士バッジに天秤が描かれているのは,その意味でピンポイントに的を得たものというべきでしょう。若手の弁護士の皆さんには,細かい法知識はもちろんではありますが,もっと大きなバランス感覚をしっかりと磨いて頂いて,的確なアドバイスをして頂きたいと思っています。 

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企業の皆さんが弁護士に相談しない理由

 先日このブログで,日弁連が実施した中小企業弁護士ニーズ全国アンケートを採り上げました。

中小企業弁護士ニーズ全国アンケートに見る弁護士像

 このアンケート結果を踏まえて,弁護士がこれからどう変わっていかなければいけないかについてのフォーラムが先日札幌弁護士会主催で開催され,私もパネリストとしてお呼び頂きました。その際,中小企業診断士の先生からご指摘頂いた中で印象的だったのは,弁護士から企業へのアプローチが足りないとの点でした。なるほど,弁護士の場合は,事務所で待ちの姿勢でいることが多く,せっかくクライアントに顧問契約を頂いていても,特段の相談がない場合限りは,弁護士側から連絡することも訪問することもなく,年賀状と請求書のやり取りしかないという場合が散見されるように思います。「ご相談を頂いてしばらくしてから,『その後どうなりましたか?』との一言があると,印象が違います。」とのご指摘も,中小企業診断士の先生から頂きましたが,これも思わずうなずかずにはいられないものでした。

 上記アンケートでも,法的課題を弁護士以外の方に相談した理由としては,「相談企業の業務を熟知しているから」55.1%,「相談事項に関する専門知識があるから」38.8%,「ひんぱんに連絡を取っているから」36.2%と続くところです。相談企業とひんぱんに連絡を取って相談を受けていれば,自ずからその企業を熟知し,その企業が直面する相談事項に関する専門知識も高められるというものです。アンケートに現れた数字と,現場を知る方の実体験の両面から,弁護士としての業務のあり方を考えさせられる経験でした。

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納税データ整理を「知り合い」に手伝わせるとは!?

和歌山県、納税データ整理を知人に手伝わせた男性主任を減給処分

【 (和歌山)県は2日、個人情報を含む納税データの整理作業を知り合いの民間人に手伝わせたとして、紀北県税事務所の男性主任(47)を減給10分の1(1カ月)の懲戒処分とした。また、管理監督責任を問い同事務所長(60)と次長(60)を訓告処分とした。】

(3日・産経新聞)

 報道によると,和歌山県の紀北県税事務所の主任が,表計算ソフトの操作に不慣れで,詳しい民間男性に2,3時間手伝わせたとのこと。発覚経緯は,別件の内部通報があり(そちらの事実関係は確認されなかったとのこと),調査の過程で本件が発覚したようです。

 納税データは,個人の財務情報として非常に重要な個人情報です。それが,何らの秘密保持義務も課されることなく,「表計算ソフトが不慣れ」という理由で(!?),しかも「知り合い」(!?)の閲覧に供されたということですから,これが事実であれば,真に嘆かわしい情報管理体制というほかありません。この人達は,自分が扱っている情報の価値というものをどう考えておられるのでしょうか。

 当然ながら,自治体には,情報管理体制の強化はもちろんのこと,表計算ソフト程度は満足に扱えるように指導を徹底して頂きたいものです。

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中小企業弁護士ニーズ全国アンケートに見る弁護士像

これまでこのブログでは取り上げてこなかったのですが,私は日弁連での会務活動にも関わっています。ここ2年程は,日弁連の「中小企業の弁護士ニーズ全国調査」アンケート分析チーム,そしてそれを継承した中小企業向けPR用のDVD作成チームに関わってきました。このアンケートは,東京商工リサーチの企業データベースから中小企業基本法にいう中小企業中無作為抽出した15,450社を対象として行われ,その中,3,214社の回答を得て,2008年3月に報告書が日弁連から公表されています。

「中小企業の弁護士ニーズ全国アンケート調査報告書」の概要

このアンケートで浮き彫りになったのが,弁護士利用のうち,裁判以外の相談・交渉の場面での利用が,地方に行くほど,あるいは企業の規模が小さくなるほど進んでいないという実態でした。すなわち,全体回答としては,(1)弁護士を裁判のみで使ったことのある企業は全体の23.2%,(2)裁判以外の相談・交渉にも使ったことがある企業は28.6%,(3)弁護士を利用したことのない企業は47.7%でした。そのうち,(1)については,弁護士の集中している東京と東京以外の調査結果にほとんど差がなく,裁判での弁護士利用は相当程度浸透している感が確認されました。これに対し,(2)については,東京49.6%,東京以外24.5%と大変顕著な差異が現れたのです。顧問弁護士の有無について尋ねたところ,「いる」との回答が東京では40%に達したのに対し,東京以外では15.5%に留まることも,これを平仄を揃えた結果でした。

この結果は,企業規模の大小にもそのまま反映するところでした。すなわち,企業規模の大小にかかわらず,裁判についての弁護士利用は進んでいるのに対し,裁判以外では規模が小さいほどその利用が進んでいない実態が明らかになったのです。

では,そうした弁護士利用の進んでいない企業では,弁護士が相談を受けるべき課題がそれほど起こっていないのかといえば,それは違うようです。先の(3)弁護士利用経験のない企業に弁護士を利用しない理由を尋ねたところ,「特に相談すべき事項がない」との回答が74.8%に達していましたが,その回答をした企業の59.3%が「法的課題を抱えている」と回答しているのです。これが何を意味するかといえば,「法的課題を相談する人は弁護士ではない」と考えているオーナーが相当数いらっしゃるという事実です。

実際,地方の弁護士さんの中には,裁判以外の業務はあまり受けたがらない方が散見されます。また,地方では事務所の所属弁護士が1,2名というのは,むしろ当たり前のことですが,そうした事務所では,なかなか弁護士に連絡がつながらず,迅速に相談しようにもなかなか相談できないという実態があるのだろうと推測されます。弁護士大増員時代に弁護士ニーズを掘り起こして,社会の隅々まで法の支配を徹底しようというのが,このプロジェクトの出発点である訳ですが,担い手の弁護士がそれに対応できる状況でないとなれば,画餅になってしまいます。社会のニーズに対して敏感にならなければならないという当たり前のことが,弁護士の世界ではまだ浸透しきっていないということなのかも知れません。

弁護士 田島正広

PS.ちなみに,私が設立し代表取締役を務めるコンサル会社「フェアリンクスコンサルティング株式会社」が賢者.TVで採り上げられました。昨日から映像が公開されています。お時間のある方は,同社設立の理念を語る私の思いなどご覧頂けると嬉しいです。
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