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弁護士田島正広の“立憲派”ブログ

田島正広弁護士が、注目裁判例や立法動向、事件などを取り上げ、法の支配に基づく公正な自由競争社会の実現を目指す実務法曹としての視点から解説します。

いよいよ動き出す裁判員制度の行方

裁判員候補者数は7600人 水戸地裁 選挙管理委員会に通知

【 来年五月二十一日に始まる裁判員制度を控え、水戸地裁は二十五日、県内における裁判員候補者数を七千六百人と算出し、県内四十四の自治体に割り当てることを決め、各選挙管理委員会に通知したと発表した。各選管は選挙人名簿から候補者を選び、地裁が十二月中旬までに本人に通知する。】

(26日東京新聞)

 裁判員制度の導入には賛否いろいろ意見がありましたが,来年5月に実施されることが決まっていることから,各方面でその準備対応が本格化しています。裁判所や弁護士会での模擬裁判も多く実施され,既に多くの市民の皆さんが裁判員裁判のあり方を体験していらっしゃいます。

 その中,そうした模擬裁判を多く経験していらっしゃる裁判官の方のご講演をお聞きする機会が先日あったのですが,裁判員である民間の方々の反応が,裁判のプロである法曹とはかなり違ったものであることが紹介され,予想していたとはいえ大変な衝撃を受けました。例えば,①弁護側が,裁判官の目から観て素晴らしいと思える弁論を口頭で展開しても,パワーポイントを用意していないだけで裁判員には全く評価されず,それが結果的に弁護側の不出来として,事実認定や量刑にまで影響しかねない実態があるとのご指摘や,②15分~20分を超える論告・弁論は,それだけで量的限界を超えてしまい,裁判員に聴いてもらえないとのご指摘には,悲しいかな裁判のショー化とでも言わざるを得ない現実を突き付けられた感がありました。さらに,③検察側は組織的戦略的対応にて,その状況を克服するために様々な工夫を凝らしているとのことであり,パワーポイントを使った冒頭陳述や論告の仕方も日増しに上達しているとのこと。こうなってくると,もはやスポーツかゲームのような印象すら受けます。

 裁判員制度の導入される事件は,刑事事件の重罪事件ですから,人の一生がこのような形で左右されることには,非常に憂慮を覚えます。最後は裁判員の方々の良識に委ねられることになる訳ですから,裁判員に選ばれる方々の責任は重いと改めて言わざるを得ません。

弁護士 田島正広

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盗撮,盗聴とプライバシー

最近,某メディアからコメントを求められる機会があって,盗撮・盗聴問題とプライバシーについて話したのですが,せっかくなので,ここでも少し触れてみたいと思います。

コメントを求められたのは,盗撮・盗聴に対する現在の法的位置付けと可能な法的責任追及手段,さらには,今後の法制度のあり方でした。盗撮・盗聴といっても様々な場面が想定されますが,質問の対象となっていたのは,個人の居宅内での私生活の場面に対する専用器具の設置による盗撮・盗聴です。こうした場合,仮に友人が住人の許諾を得て居宅内に入っていたとしても,器具設置目的を秘して立ち入り器具を設置したような場合には,刑事的には住居侵入罪の成立を免れません。しかしながら,その処罰はあくまで住居侵入罪の程度に留まりますし,仮に当該器具によりプライベートな映像が撮影され,これが広く流通してしまうような場合,プライバシーそれ自体の侵害を理由とする処罰規定はなく,それが住人の名誉を害すると評価されるような場合に名誉毀損罪に問われる可能性があるに過ぎません。この辺がプライバシー保護法制の現状での限界であり,プライバシー侵害罪の一般的な導入の必要性を説かれる論者もおられる所以です(なお,民事的には,住居侵入による盗撮行為,映像の流出行為,いずれも不法行為として責任追及の余地があります)。

もちろん,この問題は,単純に処罰を重くすれば解決する問題ではありません。例えば,プライバシー侵害罪を導入するにしても,何をもって保護すべきプライバシーと定義するのかの問題があり,また,処罰すべき行為態様の類型化・明確化の仕方も問題の余地が残ります。正当に行われてよいはずの私的録画・録音行為まで処罰範囲が広がるようなことがあってはならない訳です。

この問題が近時クローズアップされている背景には,高度情報化社会の実現とネットの普及により,盗撮映像がネット上に無限に流出し続けることで,一度侵害されたプライバシーが二度と元には戻らない現状があることが挙げられます。また,日本独自の事情として,宗教的な倫理観の欠如するところに道徳教育力が低下した点と,さらには他人の痛みを教えてこなかった過保護教育もあいまって,他人に対するのぞき見的嗜好が裏産業として成り立ちやすい土壌があることを見過ごすことはできないのではないかと思います。

こうした背景の下,盗撮・盗聴の被害は誰の身にも起こりうることであることを直視するとき,限定された私生活の場面での全裸ないし衣服で隠されるべき肢体を本人の承諾なく撮影する行為を盗撮行為として類型化して処罰することは,構成要件の明確化の観点から決して無理なこととは思いませんし,処罰範囲の不当な拡大とも思えません。ただし,この点盗撮と比較して盗聴は,録音の客体としての音声自体の場面毎の差別化が難しいようにも思えますし,実際上の被害の程度の点でも映像の録画を伴う場合とそれ以外とで,相当程度重さに差異があるようにも思えます。この辺りを考慮して今後の立法論を検討して頂きたいものです。

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採血器具の使い回し事件に観る医療行政の甘さ

採血器具使い回し、半数の1万1700施設…厚労省調査

【 針付き採血器具の使い回しが相次ぎ発覚した問題で、厚生労働省が同種器具の1991年以降の使用実態を調べたところ、器具を使っていた全国の病院や診療所約2万2500施設の半数以上に当たる約1万1700施設が使い回しをしていたことが6日、明らかになった。】

(8日読売新聞)

 今回の調査によると、全国の病院中、この器具を使っていた約5000施設の66%に当たる約3300施設が、複数人に使い回す不適切な方法で使用していたとのことです。しかも調査未回答の病院も多く,実際にはもっと高いパーセンテージの施設が使い回しをしていた可能性があるとのことです。

 「針を替えても針周辺に血液が付着している可能性があり、血液感染を避けるため、複数人には使い回さないよう添付文書に明記されている。」とのことですから,血液感染の虞が懸念されていることは明らかであり,幾たび患者の悲劇を繰り返しても気づかない医療行政の甘さが,またしても露見した格好です。健康な方でもいつ病気に苛まれるか分かりません。いざというときに安心な医療現場でなくてはならない訳で,患者の視点に立った医療行政の確立を強く求めたいものです。

 なお,厚生労働省としては,8日正午に関係施設名をホームページ(http://www.mhlw.go.jp/)で公表するとのことです。

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街の景色のネット公開とプライバシー

街の景色ネットで一望 グーグルが無料サービス

【 グーグルは5日、東京、大阪、京都、神戸など主要都市の街頭の景色をインターネットで見られる無料サービス「ストリートビュー」の提供を始めた。自宅や観光地の町並みなどをパソコンで見て楽しめる。
 地図情報や衛星写真を見られる「グーグルマップ」のページで「ストリートビュー」のボタンをクリックし、地上から見た360度のパノラマ写真に切り替える。画面上で道路を進み、見上げるように視点を移すこともできる。】

(6日読売新聞)

 公道などの公の場面で個人のプライバシーの保護をどれだけ求めることができるかについては,完全な私的空間と異なり自ずから限界があります。今回グーグルが公開するのは,顔や車両のナンバーが分からない程度の解像度の映像とのことなので,実際上プライバシー侵害の問題が生じる余地は少ないと思いますが,街の景色がネットで常時公開されるとなると,若干危惧感を覚える方もおられることでしょう。

 この点,グーグル側も,プライバシー侵害の申立には別途対処する用意があるようですが,それは申し立てる側が映像を確認した上でのことであるため,デジタル・ディバイド状況にある方や,日々関心を持って監視している方でないと,権利侵害に気づかないことにもなりかねません。自分の身を守るために,自らの情報の流通状況を監視しなければならないというのは,まさに情報化社会の功罪を感じさせる話です。

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教員採用試験合否の事前通知問題に観る,コンプライアンス体制整備の意義

教員採用試験合否の事前通知、大分市教育長も依頼

【 大分県の2008年度教員採用試験に絡み、県教委ナンバー2の教育審議監を務めた足立一馬・大分市教育長(61)が小中学校、高校の受験者計十数人の名前を書いたメモを現役の審議監2人に渡し、合否の事前通知を依頼していたことが分かった。
 足立教育長は1日、依頼の事実を認め、「長年の慣習で、許される範囲のことと考えていた。反省している」と陳謝した。06年度試験から毎年十数人分を依頼していたという。】

(1日読売新聞)

 大分県の教員採用試験合否の事前通知問題は,とうとう教育長にも及んでしまいました。教育長の弁明にもあるように,長年の慣習になっていたということ自体が既に問題なのですが,こうした違法な慣習を自らの決意で止めさせることが難しいのもまた事実です。今回報道を発端に事が大きなことになったことから事前通知は今後行われることはないでしょうが,このような機会がないままに,自らをいかに律するかについて,自信をお持ちの方はどれだけいらっしゃるでしょうか。そうであれば,教育長を批判するだけでは,本質的な解決にはならないと思います。

 そもそも翻って,コンプライアンス体制の未成熟な状況が,このような甘い判断を個人に行わせてしまう元凶というべきです。行政のトップとして自らを律するのはもとより,コンプライアンス体制をしっかりと構築し,違法な行為については縦のラインでのモニタリングはもとより,中立的な第三者を介した外部ホットラインの導入を初めとする,実効性の高いコンプライアンス体制を築き上げることが急務です。自らの甘い判断すらも,チェックされるようなシステムによってこそ,個人の判断はより厳格なレベルに確実に到達しうるものというべきでしょう。

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