このブログでも度々採り上げてきた「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」案が本日の参議院本会議で可決成立しました。詳細は下記をご覧下さい。
「青少年ネット規制法」成立(11日ITメディアニュース)
この法律の概要としては,次のような点が挙げられます(なお,参議院で可決された法律案の条文は未入手ですが,衆議院法律案からの重要な変更はないようです)。
・有害情報の定義については,「青少年有害情報」とは、インターネットを利用して公衆の閲覧(視聴を含む。以下同じ。)に供されている情報であって青少年の健全な成長を著しく阻害するもの」とした上で,例示列挙をするに留めていること。
・内閣府に、インターネット青少年有害情報対策・環境整備推進会議を置き,青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策等を審議すること。
・携帯電話インターネット接続役務提供事業者は、契約の相手方又は携帯電話端末の使用者が青少年である場合には、青少年有害情報フィルタリングサービスの利用を条件として、携帯電話インターネット接続役務を提供しなければならないこと(ただし、その青少年の保護者が、青少年有害情報フィルタリングサービスを利用しない旨の申出をした場合は、この限りでない)。
・インターネット接続役務提供事業者は、インターネット接続役務の提供を受ける者から求められたときは、青少年有害情報フィルタリングソフトウェア・サービスを提供しなければならないこと。
・青少年有害情報フィルタリングソフトウェアを開発する事業者等は、青少年有害情報であって閲覧が制限されないものをできるだけ少なくするとともに、(1)閲覧の制限を行う情報を、青少年の発達段階及び利用者の選択に応じ、きめ細かく設定できるようにすること、(2)閲覧の制限を行う必要がない情報について閲覧の制限が行われることをできるだけ少なくすることに配慮して青少年有害情報フィルタリングソフトウェア又はサービスを開発又は提供するよう努めなければならないこと。
・サーバ管理者は、その管理するサーバを利用して他人により青少年有害情報の発信が行われたことを知ったとき又は自ら青少年有害情報の発信を行おうとするときは、当該青少年有害情報について、インターネットを利用して青少年による閲覧ができないようにするための措置(以下「青少年閲覧防止措置」という。)をとるよう努めなければならないこと。
・青少年有害情報フィルタリングソフトウェアの性能の向上及び利用の普及を目的として、青少年有害情報フィルタリングソフトウェア・サービスに関する調査研究・普及及び啓発業務,同ソフトウェアの技術開発の推進業務を行う者は、総務大臣及び経済産業大臣の登録を受けると共に,大臣はその業務の状況に関し報告又は資料の提出を求め,その登録取り消し権限を有すること。
衆議院提出時の法律案はこちら以上の概要を観ての私見を述べさせて頂きます。
(1)登録制のフィルタリング推進機関との関連での,有害性判断への国の間接的関与に対する懸念この法律は,法案策定過程において,有害情報を国側が規定する内容から,例示列挙に留めてフィルタリング事業者の判断に委ねる方向に変更がなされました。有害性を直接国側が判断する仕組みではなくなったとはいえ,登録制のフィルタリング推進機関制度との関連で懸念するところがないではありません。すなわち,フィルタリング推進機関制度は,フィルタリングに対する国の関与を認めるものですから,フィルタリングの判断内容に関して国が干渉する余地がある限り,有害性判断への国の間接的関与を許すことになります。条文上は,「フィルタリング推進業務の適正な運営を確保するために必要な限度において」の関与とされていますが,もっと明確にフィルタリングの判断内容に関する関与を許さないように規定すべきだったと思いますし,今後の省令の制定や運用に当たっても,その方向を意識して頂きたいところです。
(2)段階的フィルタリングと,有害性判断に際しての実体・手続両要件への配慮の重要性繰り返し述べてきたように,フィルタリングを民間事業者に委ねるとしても,同事業者が有害と判断した情報は青少年の閲覧ができなくなる訳ですから,条文にもあるように「青少年の発達段階及び利用者の選択に応じ、きめ細かく設定できるようにすること,(2)閲覧の制限を行う必要がない情報について閲覧の制限が行われることをできるだけ少なくすること」への配慮をしっかり行って頂く必要があります。有害性判断の内容とその判断過程,フィルタリングで排除される情報提供者等の異議申立手続などへの配慮は重要です。
(3)将来のより強い規制に対する懸念この法律は,現時点での民間努力の可能性を大前提として,緩やかな規制に留めた要素が強いですから,今後の民間努力の状況次第では,より強い規制に発展する虞が否定できません。民間努力の重要性が強く認識されなければならないといえます。
ただ,私はこの点を否定的にばかり捉える必要はないと思っています。なぜならば,より緩やかな段階的規制でも効果を揚げられないことが確認できたということこそが,表現の自由に対するより強い制限を正当化する何よりの根拠となるのであって(いわゆるLRAの原則(より制限的でない規制手段の不存在を規制側が立証しない限り違憲とする,表現の自由規制立法の合憲性判定基準)を参照),反対にいえば,緩やかな規制で成果が上がった以上は,それ以上の規制を正当化することができないからです。ぜひ関係事業者の皆さんの自主的努力による成果により,次なる規制へと進まないよう期待したいところです。
関連記事:衆院通過した「青少年ネット規制法案」に新聞協会が懸念表明(6日ITメディアニュース)
関連リンク:いわゆる「青少年ネット規制法」が成立、どのような影響が今後考えられるのか?(11日GIGAZINE)
弁護士 田島正広○関連リンク
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