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弁護士田島正広の“立憲派”ブログ

田島正広弁護士が、注目裁判例や立法動向、事件などを取り上げ、法の支配に基づく公正な自由競争社会の実現を目指す実務法曹としての視点から解説します。

船場吉兆事件に観るコンプライアンスのあり方

昨年来,牛肉原産地偽装や料理の使い回しなどで世間の批判を受けてきた船場吉兆が,経営難から廃業に至ったとのことです。
→ http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080529ddm041040194000c.html

ここでは,コンプライアンスの観点から,この件に触れてみたいと思いますが,この件で重要な視点としては,(1)リスク・コントロールの視点の意識の必要性,(2)情報開示の要請の2つが挙げられます。

まず,(1)リスク・コントロールの視点についてですが,法令・企業倫理の遵守のためには,原料の原産地偽装や料理の使い回しなどは,およそあってはならないことです。企業が不祥事を起こすときは,得てして目先の違法・不正な利益に走る訳ですが,現代では,こうした行為はおよそ合理的にみて利益とはならないものとなっています。すなわち,終身雇用制崩壊による能力主義人事の導入は,能力ある社員が詰め腹を切ることなく,企業不祥事を外部に告発する方向に向かわせるところとなっています。消費者の権利保護とそれによる権利意識の増大,企業の社会的責任の意識の向上などの諸要因もあいまって,いったん不祥事が発覚した場合の損害は,従前の比ではなくなっており,結果としてリスクコントロール上,違法・不正行為は割に合わないこととなる訳です。牛肉原産地偽装で失敗した雪印食品の例は未だ記憶に残るところですが,今回の船場吉兆でも同様のことがいえるでしょう。早い話として,ずっと健全に利益を上げて行きたければ,悪いことをしては損だということです。巧妙に世間を欺いたつもりでも,それは必ず事後的に企業経営を困難ならしめる要因となるのですから,経営陣はこの視点を決して忘れてはなりません。

また,(2)情報開示の要請についてですが,いくらコンプライアンスに力点を置いてみても,企業が結果として不祥事を起こすことは避けられないことです。そうした場合,これを隠蔽するのかそれとも積極的に開示するのかによって,企業のコンプライアンスの質が明らかになります。この場合,最悪なのは,隠蔽した事実が後日芋づる式に発覚する事態です。船場吉兆事件では,当初発覚した不祥事は氷山の一角だった訳で,その後次々と隠蔽されていた不祥事が明らかになりました。こうなると,まだ隠されていることがあるのではないかとの疑念がいよいよ増すところとなり,信頼は地に堕ちるばかりとなってしまいます。不祥事の公表は,いったんは築きあげた信頼を失わせることにもなりかねないだけに,決断が難しい要素があるのですが,しかし,あえて積極的に不祥事を自ら全面的に開示し,その改善策について速やかに対処するとなれば,信頼の喪失は最小限度で済み,むしろこの程度のことでもここまでやってくれているのだから,もうこれ以上の不正はないだろうとの信頼を受けることにもなる訳です。

コンプライアンスを語るとき,どうしても避けて通れないのは,企業トップのコンプライアンスに向けた意識レベルの向上の必要性です。こうした意識の向上こそが,健全な企業経営にとって最重要な要素であることを忘れてほしくはないものです。

                                 弁護士 田島正広

○関連リンク
  田島総合法律事務所              http://www.tajima-law.jp
  フェアリンクスコンサルティング株式会社  http://www.fairlinks.co.jp

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ネット上の青少年有害情報閲覧規制(5)

今朝の日経新聞によると,自民党内は,党内で割れていた青少年有害情報閲覧規制のあり方について,有害情報の定義は置かず,フィルタリングの努力を接続業者などに義務付ける内容での法案一本化を策定したとのことです。罰則規定もないとのことでした。
  ↓↓
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20080522AT3S2101N21052008.html

とりあえずは,安心しておりますが,フィルタリングのあり方については引き続き議論されなければならないところであり,その点でどのような法案になるのか,注目しています。


弁護士 田島正広  http://www.tajima-law.jp

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人形町サロンに論稿が掲載されました

先頃,このブログでも紹介したネット上の表現の自由と名誉毀損に関する裁判例の評釈を改めてとりまとめて,次のサイトで紹介して頂きました。
    ↓↓↓
http://www.japancm.com/sekitei/note/2008/note50.html

お時間のある時に,どうぞご覧下さい。

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内部通報制度(12)~顧問弁護士の関与は?

 通報・相談担当機関として顧問弁護士を活用する場合,経営陣の関与した不正については経営陣からも相談を受ける可能性があります。また,残業手当の未払いや不当解雇といった労働問題についての通報のように,会社と対立する内容であることが一般的な場合には,いずれ当該紛争について,会社から相談を受けることも多いことでしょう。顧問弁護士は,会社との関係では委任契約上の善管注意義務を追い,会社の利益に忠実に行動しなければならない一方,通報者との関係では,外部相談窓口の運営者として,中立公平に通報や相談を受けなければなりません。特に,単なる通報のレベルを超えて相談を受ける場合など,この両面を同時に実現することは困難であり,いわゆる利益相反状態に陥ることになるものと言わざるを得ません。

 そもそもこのような虞を内包する内部通報制度であれば,社員からの信頼も得にくく,実際に機能しづらいことが予想されます。この点,相談まで受けてしまうと利益相反になる可能性が高まることから,顧問弁護士としては形式的な通報受付のみの対応を行うことも考えられますが,それでは,通報を単に会社にフィードバックするだけの機関となり,存在意義が疑われることになるでしょう。

 こうした場合に備えて,通報・相談受付業務を,経営そのものにタッチしない顧問弁護士以外の外部の弁護士に任せることや,顧問弁護士でも経営相談先と内部通報問題相談先を使い分けることが有効な手段といえます。

 仮に同一法律事務所での経営相談業務と内部通報・相談受付業務の使い分けを検討する場合,将来的には当該事務所内でいわゆるファイヤーウォールが厳格に敷かれていることを要件として容認される可能性がないとはいえないでしょう。すなわち,当該事務所の経営相談を受けるセクションと内部通報を受けるセクションが厳格に分離され,相互の情報交換が一切なされていないことを前提として,初めてこの点は容認され得るものであり,かつ信頼され得るものと思われます。

 ただし,大事務所化を踏まえた弁護士倫理規程の見直しは,日弁連でも未だ協議が継続中であり,明確な結論に至っていないようです。従って,上記のファイヤーウォールによる対処が適法化されるかどうかは,あくまで将来的課題に止まることになります。現状では,顧問弁護士が内部通報を受けた上で労働紛争などに発展する場合など,会社と対立する社員側から顧問弁護士に対する懲戒請求などの揚げ足取りの材料にすらされかねないものといえ,かかる事態に至った場合は,当該弁護士としても双方の業務を辞任せざるを得なくなる虞が高いことを指摘しておきたいと思います。


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弁護士落合先生のブログにてご紹介頂きました

 本ブログですが,弁護士の落合洋司先生のブログ「日々是好日」にて大変好意的にご紹介頂きました。

 http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20080512

 落合先生,どうもありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。
 落合先生のブログは,刑事事件から事件・事故,さらには文化面など,様々な話題を採り上げておられ,私もよく拝見しております。私のブログなど落合先生のブログの足下にもはるかに及びませんが,引き続きご期待に添えるよう頑張りたいと思います。

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ネット上の青少年有害情報閲覧規制(4)

 青少年有害情報に対するフィルタリングを立法で義務化する部分については,それ自体は成人の知る権利には影響しませんが,子どもの知る権利に対する制約として,程度の差こそあれ表現の自由に関する制約である点には変わりはありません。したがって,青少年有害情報の定義を十分明確化した上で,子どもの発育程度に応じた適切なフィルタリングを実施することが必要でしょう。制限の対象となるかどうかが不明確であれば,自ずから萎縮的効果を伴う虞があります。立法案としては,法律において概ね定義をした上で,詳細は第三者機関の判断に委ねる趣旨のようです。条項案においては次のように定義されています。

この法律において「青少年有害情報」とは、次のいずれかの情報であって青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるものとして青少年健全育成推進委員会規則で定める基準に該当するものをいうこと。
1 人の性交等の行為又は人の性器等の卑わいな描写その他の性欲を興奮させ又は刺激する内容の情報であって、青少年に対し性に関する価値観の形成に著しく悪影響を及ぼすもの
2 殺人、生涯、暴行、処刑等の場面の陰惨な描写その他の残虐な行為に関する内容の情報であって、青少年に対し著しく残虐性を助長するもの
3 犯罪若しくは刑罰法令に触れる行為、自殺又は売春の実行の唆し、犯罪の実行の請負、犯罪等の手段の具体的な描写その他の犯罪等に関する内容の情報であって、青少年に対し著しく犯罪等を誘発するもの
4 麻薬等の薬物の濫用、自傷行為その他の自らの心身の健康を害する行為に関する内容の情報であって、青少年に対し著しくこれらの行為を誘発するもの
5 特定の青少年に対するいじめに当たる情報であって、当該青少年に著しい心理的外傷を与えるおそれがあるもの
6 家出をし、又はしようとする青少年に向けられた情報であって、青少年の非行又は児童買春等の犯罪を著しく誘発するもの

この点,下位機関への委任は本来国会が唯一の立法機関であることに照らして,民主制を空洞化させかねない要素があるものです。しかも本件は表現の自由への制限となるものであり,民主政の成立基盤とは無関係とはいえないものです。したがって,下位機関への委任は,それがどのような人選に基づくか,どのような手続で基準が定立されるのかも含めて,慎重に検討されるべきことと思料しております。

(次回へ)


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内部通報制度(11)~通報・相談窓口の設け方は?

 内部通報制度の運用に際しては,コンプライアンス部などコンプライアンス確立に取り組む部署を定め,内部通報・相談窓口を設置することになります。名称は一般に企業倫理ヘルプライン,企業倫理ホットライン等と呼ばれることが多いといえます。

 また,コンプライアンス体制への責任を明確にする観点から,社内におけるコンプライアンス担当総責任者を定めるべきでしょう。一般にコンプライアンス部等の部長が当該責任者とされるケースが多いようですが,コンプライアンスへの取り組みの必要性が急務となるような企業では,有力役員がこの地位を兼任するケースも観られます。

 通報あるいは相談窓口については,通報・相談内容に応じた幾つかの窓口を併設する例が多いようです。例えば,部内での比較的軽微な相談については上司(報告は当該上司からコンプライアンス部にも行う),懲戒事由に渡るような案件についてはコンプライアンス部,そして現経営陣の不正に渡るような重大事案では,コンプライアンス委員会といった形です。外部相談窓口は,これらと並んで通報・相談受付窓口としての機能が期待されることになります。

 通報・相談受付部署と調査担当部署は一応別に存在しうるところではありますが,密接な関連を有するだけに,同一部署で対応する場合も多いと思われます。仮に併設するとしても,両者間の連携は重要です。なお,調査担当部署には,十分な調査能力と調査権限を付与し,社内的に当該部署による調査を拒むことがないよう事前に周知徹底を図るべきでしょう。


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内部通報制度(10)~規程・組織の整備の仕方は?

 まず,コンプライアンスの基本となるのは倫理綱領・行動基準などのコンプライアンスに関する基本理念の宣言であり,これを策定することからコンプライアンス体制の整備を始めることになります。これは企業のコンプライアンスのための憲法とでも言うべきものであり,社員が容易に理解し遵守できるよう,短めのものが望ましいと言えます。しっかりした基本理念を持たずに内部通報規程だけ定めてみても,「仏作って魂入れず」になってしまう虞があります。

 ところで,通報に関する規程・組織の整備に当たっては,内部通報をコンプライアンスの手段として積極的に活用するための,機動的な規程・組織作りを心掛ける必要があります。不正が内部的に浄化できないまま外部に伝わった場合には,企業が存亡の危機に立たされることを強く意識すべきです。

 規程・組織は経営陣が承認し,社内に周知させるべきものです。経営陣の積極的関与により,社内での内部通報制度の浸透も容易となり,機能も期待できることになります。その際,不当解雇・不利益取扱の禁止を制度として確立し,専門家のチェックを受けて内容の万全化を図ると共に,企業内の意見を十分に反映して企業風土に合った実用的なものにして頂きたいと思います。

 組織においては,通常の指揮監督体制と同じであっては,告発対象の違法行為が隠蔽される可能性がないとはいえません。特に重大な事案においてはコンプライアンス委員会など別に部署を設けて対処すべき必要性が高いといえます。


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ネット上の青少年有害情報の閲覧規制(3)

 ところで,子どもというだけで広範なフィルタリングの全てが直ちに是認されるわけではありません。あくまで子どもの健全育成の観点からの制約となりますので,不当に広範な制約を行うことが適切とは言いがたいことになります。同時に技術的限界の問題はあるものの,子どもの年齢や発育の程度に応じてその限界線は可変的であるべきと言えます。ここでは,知る権利に対する制約という憲法上重い制約であることに照らして,フィルタリングによって廃除される表現はどのようなものであるべきか(=実体要件),フィルタリングの内容・程度をどのような手続に基づき決定・実施しているか(=手続要件)の両方が,問われることになります。

 フィルタリングをかける携帯電話運営事業者の立場においては,実体・手続両要件を精査の上で,技術的に可能な範囲で限界設定を柔軟に選択できるようなフィルタリングを導入することが望ましいと言えます。

 さて,いよいよ本題に入りますが,「青少年の健全な育成のためのインターネットの利用による青少年有害情報の閲覧の防止等に関する法律案骨子」については,どのような問題があるでしょうか。ここでは,国が一定レベルのフィルタリングの導入を携帯電話会社に義務付けることになる訳ですから,直接的に憲法上の知る権利を制限する場面になります。よって,実体・手続両要件が精査されなければならないことはもとより,合憲性が慎重に判定されなければならないことになります。

 当職が入手している情報だけでは不明確なところも多いため,この段階で実体・手続要件の内容について評価できるところは限られているのですが,青少年有害情報のウェブサイトからの削除までが議論されているようですから,成人の知る権利を制限する可能性があるものとして,表現の自由に関する厳格な合憲性判定基準であるLRAの原則(Less Restrictive Alternatives),すなわち,より制限的でない他に取り得べき規制手段の不存在を規制側が立証しない限り違憲とする判断基準が妥当する場面が観念しうると言わざるを得ないと思います。

 この点,青少年有害情報については,民間事業者が早くからフィルタリング・ソフトウェアを販売しており,これを導入する家庭や学校も多くあるところ,フィルタリングによって制限される表現がどの程度の内容のものかについては,これまで業者の設定するレベルと,それを選択する家庭・学校の判断に委ねられていました。確かにこれでは実体要件の適正が十分図れない可能性がありますから,その意味でフィルタリングの内容に対する何らかの規制が必要な状況があります。しかしながら,現在フィルタリングを行う事業者側が幾つかの団体を立ち上げて,その内容について手続要件にも配慮しながら議論を進めている段階です。こうした取り組みが仮に不十分な結果しか導けなかったのであれば,より強い規制もやむなしとの判断になり得るでしょうが,現時点ではその取り組みをもって十分な成果を導ける可能性も否定しきれない状況の中で,なぜ直ちにより強力な制限が必要になるのでしょうか。LRAの原則に照らせば,それを国側が立証しなければいけないはずですが,今回の議員立法を推進しようとしている方々は,いかなる根拠をお持ちなのでしょうか。

 仮に,青少年有害情報を青少年だけに見せないようにするためのフィルタリングの内容に関する規制に止まる場合,成人の知る権利への配慮が不要となることから,青少年の保護の観点からの政策的配慮にややウェイトを置くことができるとしても,それでもより緩やかな他の手段が採り得るのであれば,当該規制は不必要な規制というほかなく,合理性を欠くとの判断に至る可能性が否定仕切れないはずです。

(次回へ)

弁護士 田島正広  http://www.tajima-law.jp

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内部通報制度(9)~社内告知・研修は?

いかに素晴らしい制度設計がなされても,実際に通報を行うべき社員に制度の導入・内容が十分に告知されていないと,それが機能することは期待できません。もちろん実際には,社内告知は相当程度行われているケースが圧倒的と思われますが,そこで散見されるのは,制度の存在は知っていても,「実際に通報するとき,どうしたらよいかが分からない」,「情報漏えいが心配」,「会社から不利益処分を受けるのではないか」,あるいは「敷居が高い」と感じていて,通報に踏み切れないといった声です。ここでは情報管理の徹底や不利益処分を課さないなど会社としてまずは公正かつ妥当な制度設計をすることが大前提となりますが,せっかく導入された制度を生かすために,効果的な社内告知・研修を実施しなくてはなりません。

その際,まず内部通報受付機関の守秘性については,実際に通報がなされた時どのような取扱いを受けるのか,通報担当機関での取扱いの流れと,そこでの守秘性の高さ(内部通報受付機関担当者の守秘義務の誓約など)を社員にしっかりと認識してもらうことが重要です。
また,社員研修においても,例えば当該会社において生じうる可能性のあるリスク事項に関する想定事例を設定し,社員に模擬実習的に通報を体験させるなど,内部通報が決して敷居の高いものではないことを知ってもらう必要があります(もちろん,その前提は,相談受付機関自体の敷居の低さであり,例えば本格的な通報と呼べるレベルには至らない相談程度の内容のものであっても,面倒がらずに真摯に受け止めることが重要といえるでしょう)。

これらの要件を満たした実効的かつ実践的な社内告知・研修の実施により,内部通報制度はいよいよその機能を高めることが期待されます。

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ネット上の青少年有害情報の閲覧規制(2)

まず,この問題を考える大前提として,ウェブサイトの閲覧行為の法的位置づけを考えなければなりません。この行為は,ウェブサイト上の表現を受領する行為であり,これを行う自由はいわゆる知る権利と言われ,表現の自由の一類型と考えられます。ここで,表現の自由(憲法21条1項)とは,人が自分の行いたいように行動する(自己実現)と共に,民主主義を維持する上で,人権の中でもより優越的地位にある重要な人権とされます。ウェブサイト上には,多分野に渡る大量の情報が存在していますが,今やウェブサイトの閲覧なしに情報化社会を生き抜くことは不可能とも言える状況です。この点,子どもも人権を有するものとして知る権利を有しますから,親や学校からその利用を許された携帯電話やコンピュータを駆使して自分の閲覧したいウェブサイトを閲覧する自由を有するという前提に立つことになるわけです。

 しかしながら,ウェブサイト上には必ずしも教育上有益とは言いがたい情報も氾濫しており,ポルノはもとより残虐映像などは,その内容次第では子どもに重大な衝撃を与え,その健全な発育に支障を及ぼしかねません。子どもが自分の知る権利を行使することによって,当該時点での自己実現を上回るもっと大きな利益とも言うべき自分自身の健全育成の利益への重大な脅威にすらなりかねません。

 また,親には子どもに対する教育の自由があり,子どもの健全育成にかなう範囲で広範な裁量権が認められるほか,その所有する携帯電話やコンピュータについて管理権が存しますので,その購入,子どもへの付与から利用方法の指定に至るまで親の裁量に服することになるでしょう。同様に学校においても,教育上並びに施設管理権の観点からの広範な裁量権が認められることになります。

そこで,子どもの現時点の意思に反してでも,親や学校がこれらの裁量を行使して子どもの発育程度に応じた知る権利の制限を行うことが,子ども自身の健全育成のために許される場合があるものと考えられます。フィルタリングはまさにそのための手段と位置づけられることになります。憲法論的には,人権制約の根拠である「公共の福祉」(憲法13条)の一内実として,いわゆるパターナリスティックな制約という類型※が考えられていますが,その範疇に含められることと思料します。

※ パターナリスティックな制約とは,国家がその人の保護のために,後見的にその人権を制約する類型です。例えば,子どもが自ら喫煙や飲酒をしたいと思っても,子ども自身の健全育成のためにそれらは禁止されていますが,これなどはその適例といえます。

(次回へ)


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