
先般,「青少年の健全な育成のためのインターネットの利用による青少年有害情報の閲覧の防止等に関する法律案骨子」が与党側から明らかにされました。この法律案は,青少年がインターネットを通じて有害情報を閲覧することを防止して,青少年の健全育成に資することを目的とするものです。この目的の達成のために,性的な表現,残虐な表現,自殺教唆的表現,薬物濫用や児童買春を誘発する表現等を青少年有害情報と定義して,その青少年への閲覧を防止するために,ウェブサイト管理者に有害情報の削除を義務付けるほか,携帯電話会社にフィルタリングサービスの提供を義務付ける内容となっています。また,インターネットカフェ事業者に対しても,青少年につき他から見通せる客席において,フィルタリングソフトを作動させた端末を利用させることを義務付けています。青少年有害情報の定義の詳細は,内閣府に設けられる青少年健全育成推進委員会の定める規則に委ねられ,また,掲示板などに書き込みを行った者と管理者,インターネット接続プロバイダ事業者等との紛争処理のために,指定青少年有害情報紛争処理機関を創設することにしています。
この法律案は,特に民間でのフィルタリング自主規制検討の動きと緊張関係を持ち,また,プロバイダ事業者等には相当程度の経済的負担を伴うだけに反発も大きいようです。ここでは,法律家としての視点から,この法律案について私見を述べたいと思います。
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http://think-filtering.com/
http://diamond.jp/series/machida/10023/
私は、インターネット上に青少年にとっての有害情報が氾濫している現状については,青少年の健全育成の観点から憂慮するものであり,この法案を積極的に推進される国会議員の先生方の動機の部分については決して理解をしないではありません。この法律案の目的の部分については,もちろん賛同するものです。
しかしながら,それ故に国がサイト管理者やプロバイダ事業者に対してフィルタリングを初めとする一定の措置を義務付けるべきとまでは思っておりません。民間事業者の自主的な努力の現状を尊重しないこのような法規制については,(1)表現の自由に関する法規制として要求される必要最小限度性を超えるものとして,違憲の疑いが残るものと考えております。また,法案化に当たっては,(2)法律レベルで規制対象が十分明確になるよう慎重に配慮する必要があり,さらに,(3)行政による人権制限に当たっての手続的保障についても,適正手続の保障の観点から工夫されなくてはなりませんが,この点でも,合憲性の点で憂慮するところが残ります。
のみならず,このような規制が,どれだけの実効性を持ちうるか(例,青少年と成人との分別をいかに行うか,海外からの輸入PCへの規制等),あるいは本件規制を実現するためにもっと大きな法益を損なうことにはなりはしないか(成人には有害ではないコンテンツが削除されてしまうことによる成人の知る権利の制限,事業者の負担増に伴う国際競争力の阻害等)についても疑問を持っています。以下,敷衍することとします。
(次回へ)
弁護士 田島正広 http://www.tajima-law.jp


