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弁護士田島正広の“立憲派”ブログ

田島正広弁護士が、注目裁判例や立法動向、事件などを取り上げ、法の支配に基づく公正な自由競争社会の実現を目指す実務法曹としての視点から解説します。

ウイニー開発者無罪判決とデジタルコンテンツの保護のあり方

ウィニー無罪 それでも大切な技術者の良心(10月11日付・読売社説) 

ウイニー開発者の無罪判決については,様々な論調があるようですが,処罰範囲の明確性を堅持して萎縮的効果(法的に行ってもよいことを自ら自粛してしまう効果)を避けようとする判旨は,罪刑法定主義の観点に沿うものと言えることでしょう。もとより,刑事事件としての位置づけの外側にある技術者の良心論になると,これは爆薬や核融合の開発にも通ずる話になってしまいますが。

この問題の背景にある知的財産権の保護問題を考えるとき,知的財産権の侵害に悪用されうるソフトの開発という点だけを微視的に見るべきではなく,もっと視野を広く持つべきと私は考えています。例えば,対応方法として,まず,デジタルコンテンツの保護技術の革新と利用形態の進化による方法が考えられます。そもそも,デジタルコンテンツが無制限のデジタルコピーが可能な形態でユーザに提供されていればこそ,違法コピーもはびこる訳ですし,また,違法コピーによらずにネット上で簡易かつ安価に利用することができれば,ユーザの選択肢も広がるでしょう。

また,刑事処罰は現行法上最も重いペナルティですが,刑事法の謙抑性に照らせば,刑罰権は安易に発動されるべきではなく,むしろ民事的な手法での対応を先行させるべきものでしょう。民事的な手法が時間的,費用的に効果的でないため,いきなり刑事告訴をしなければならないというのは本来本末転倒な話であって,最終的には立法府の対応が問われるべきものです。その意味で,デジタルコンテンツの実効的な保護がより一層確実な制度整備を,国際協調も視野に入れて考えていかなければならないように思います。

弁護士 田島正広

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若手弁護士の研修会での講演

 昨日,第一東京弁護士会新進会と東京弁護士会法友全期会共催の若手弁護士向け研修会にて講演してきました。いずれの会も,各弁護士会内部の若手弁護士で構成される会派であり,内部研修や外部向け法律相談会,著作物の刊行などに積極的に取り組んでいます。弁護士会を異にすることから両会派はこれまで研修を共催したことがなかったということですが,今回は両会派から150名近くの出席者を得て,大盛況のうちに開催されました。題して「企業をとりまく新しい法制度の基礎知識と顧客対応」。内部通報,個人情報保護,事業承継の各分野を採り上げて,その概要の説明と,顧客対応上の留意点などについて知見を深めるものであり,私の担当は個人情報保護の分野でした。

 その際にもお話ししたことですが,この法律の趣旨を問うと,えてして「個人情報を保護するものでしょ?」と言われてしまいがちです。「それでは50点しかつかないんですよ」,とお話しすると,意外とばかりの表情をされるものですが,この法律は(第1条の目的でも書かれているのですが),一定のルールに基づく個人情報の利用を認めて,その保護と利用のバランスを図ったものであり,それゆえにこそ,具体的な場面において,どの程度の保護が必要かに際してバランス感覚が問われることになります。安全管理措置としてどの程度の対応をすればよいのか,などはその典型場面ということになるでしょう。

 実は情報に関する法分野は,全てこの対立軸での調整が図られています。例えば,著作権。著作権の保護を完全にしようと思ったら,著作物の原盤を分厚い金庫に入れて誰の目にも触れさせなければよいのですが,それでは読むことも聴くこともできないため,著作物の存在意義がなくなってしまいます。いかにして違法コピーを抑止し,著作権者の利益を保護しながら,一般の利用を推進していくかが,そこでのテーマとなるわけです。この視点をしっかり持っていただくと,一時期問題になった個人情報の過剰な保護など容易に回避することができるというものです。

 法律家の法律家たるゆえんは,このバランス感覚に基づく妥当な利益衡量ができる点にあると私は思っています。弁護士バッジに天秤が描かれているのは,その意味でピンポイントに的を得たものというべきでしょう。若手の弁護士の皆さんには,細かい法知識はもちろんではありますが,もっと大きなバランス感覚をしっかりと磨いて頂いて,的確なアドバイスをして頂きたいと思っています。 

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デジタル放送:ダビング10解禁

デジタル放送:ダビング10解禁 五輪商戦が白熱 家電量販店、販売増に期待

【録画したデジタル放送番組の複製回数を1回から10回に緩和する「ダビング10」が4日、解禁された。メーカーが著作権者に支払う「私的録音録画補償金」をめぐる両者の対立により、当初予定から1カ月遅れの船出となった。録画ニーズが高まる北京五輪まで1カ月に迫り、メーカーや家電量販店は「夏のボーナス商戦がさらに盛り上がる好材料だ」と期待を高めている。】(5日毎日新聞)


ここのところ多忙だったので,このブログも更新できなかったのですが,今日からまた再開です。

早速ですが,デジタル放送のコピー制限を緩和する“ダビング10”が解禁になりました。ユーザには朗報です。

デジタル・コンテンツについては,コピーによる品質劣化がないことから,コピー制限を緩和することが違法利用にもつながりかねない要素があります。そのため,著作権の保護と利用の妥当な調整を巡る議論が容易には決着しません。You Tubeなどのサイトへのデジタルコンテンツの無断投稿なども一時は問題となっていましたが,最近は単純に違法複製・投稿を制限するという発想から,ユーザのコンテンツの利用のあり方を広く捉えながら,著作権者への補償を初めとする権利保護も同時に配慮するという発想に向かいつつあるようです。私も,一部の違法利用者への対策に力点を置くあまり,大半のユーザが不便な思いをするのはいかがなものかと思います。今回のダビング10解禁は,こうした流れに沿う結論ということになるのでしょう。

しかし,コピーワンスの場合には,ディスクに落とすと自動的にハードディスクから消えていた番組が,今後はそのまま残ることになるので,整理整頓の苦手な方は,ハードディスクがすぐに一杯になってしまうかもしれませんね(笑)。

弁護士 田島正広

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