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弁護士田島正広の“立憲派”ブログ

田島正広弁護士が、注目裁判例や立法動向、事件などを取り上げ、法の支配に基づく公正な自由競争社会の実現を目指す実務法曹としての視点から解説します。

内部通報取扱いの難しさ

内部告発者の実名を会社側に通知、弁護士を戒告処分

【 内部告発者の実名を会社側に伝えたのは、秘密保持義務に反し、弁護士の品位を失う非行にあたるとして、第二東京弁護士会が、トヨタ自動車販売店グループの外部通報窓口担当の男性弁護士(35)を、戒告の懲戒処分にした。(中略) 
 (同会の)懲戒委員会の審査に先立ち、綱紀委員会は昨年1月、社員が実名通知を承諾した事実は認められないと判断し、弁護士を「懲戒相当」と議決した。これに対し、懲戒委員会は、社員が自宅待機を命じられた後、弁護士に抗議をしていない点などを挙げ、「社員は承諾していた」と、綱紀委員会とは逆の判断を示した。
 しかし、承諾に際して弁護士が、実名通知で起こりうる不利益を、社員に具体的に説明していないことなどから、「社員が自発的な意思で、会社に実名を通知して不正を調査するよう求めた承諾とは認められない」と判断、弁護士は「秘密保持義務に違反している」と結論付けた。】

(11日・読売新聞)

 この事件は,概要,会社の内部通報外部窓口担当の弁護士が社員からの内部通報を受けた際に,同社員の承諾なくその実名を会社に通知したとして懲戒請求を受けた事案です。

 記事では少々分かりづらいのですが,どうやら今回の認定では,間接事実から実名開示に関する社員の承諾を一応認めつつも,弁護士が社員に起こりうる不利益の具体的説明をしていなかったことから,積極的な実名通報による調査依頼の趣旨とは認められないとしたもののようです。

 内部通報をした社員が会社から不利な取扱いを受けるケースは,これまでにも報じられています。コンプライアンス維持のための自浄作用の契機を社員に期待するという建前とは裏腹に,実際には,それを否定的消極的に受け止める企業も散見される訳です。そんな中,外部窓口を担当するに当たっては,極力公正な第三者として通報者に不利益が及ばないように保護を図りつつ,通報事実の調査を進められるよう配慮していかなければなりません。この点,会社の顧問弁護士の立場となると,会社から当該通報事案に関する相談を受ける可能性もあるだけに,実際にどこまで通報者から事情を聞き出すことが許されるのか,将来の利益相反の可能性を意識すると,微妙な問題が残ることになります。

 会社と顧問関係にない外部の弁護士であれば解決する問題かといえば,それでも,会社から対価を得ているという形式は残っていますから,やはり通報者の方の立場に立った通報取扱い,特に相談業務が容認されるのかには疑問が残ることになります。もとより,弁護士以外の専門会社であれば,弁護士法上相談業務を受けることは許されません。

 私の場合は,いずれのスタンスの場合であるにせよ,公正な第三者として通報をお受けするに際し,相談はお受けしないという一線を画しているのですが,通報者からすれば,もっと親身になってほしいというのが本音ではないかと思います。この辺の線引きは,明確な答えが出ている分野ではないだけに,なかなか難しいところです。

弁護士 田島正広

○関連リンク
田島総合法律事務所
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パンダ君のコンプラ



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内部通報制度(12)~顧問弁護士の関与は?

 通報・相談担当機関として顧問弁護士を活用する場合,経営陣の関与した不正については経営陣からも相談を受ける可能性があります。また,残業手当の未払いや不当解雇といった労働問題についての通報のように,会社と対立する内容であることが一般的な場合には,いずれ当該紛争について,会社から相談を受けることも多いことでしょう。顧問弁護士は,会社との関係では委任契約上の善管注意義務を追い,会社の利益に忠実に行動しなければならない一方,通報者との関係では,外部相談窓口の運営者として,中立公平に通報や相談を受けなければなりません。特に,単なる通報のレベルを超えて相談を受ける場合など,この両面を同時に実現することは困難であり,いわゆる利益相反状態に陥ることになるものと言わざるを得ません。

 そもそもこのような虞を内包する内部通報制度であれば,社員からの信頼も得にくく,実際に機能しづらいことが予想されます。この点,相談まで受けてしまうと利益相反になる可能性が高まることから,顧問弁護士としては形式的な通報受付のみの対応を行うことも考えられますが,それでは,通報を単に会社にフィードバックするだけの機関となり,存在意義が疑われることになるでしょう。

 こうした場合に備えて,通報・相談受付業務を,経営そのものにタッチしない顧問弁護士以外の外部の弁護士に任せることや,顧問弁護士でも経営相談先と内部通報問題相談先を使い分けることが有効な手段といえます。

 仮に同一法律事務所での経営相談業務と内部通報・相談受付業務の使い分けを検討する場合,将来的には当該事務所内でいわゆるファイヤーウォールが厳格に敷かれていることを要件として容認される可能性がないとはいえないでしょう。すなわち,当該事務所の経営相談を受けるセクションと内部通報を受けるセクションが厳格に分離され,相互の情報交換が一切なされていないことを前提として,初めてこの点は容認され得るものであり,かつ信頼され得るものと思われます。

 ただし,大事務所化を踏まえた弁護士倫理規程の見直しは,日弁連でも未だ協議が継続中であり,明確な結論に至っていないようです。従って,上記のファイヤーウォールによる対処が適法化されるかどうかは,あくまで将来的課題に止まることになります。現状では,顧問弁護士が内部通報を受けた上で労働紛争などに発展する場合など,会社と対立する社員側から顧問弁護士に対する懲戒請求などの揚げ足取りの材料にすらされかねないものといえ,かかる事態に至った場合は,当該弁護士としても双方の業務を辞任せざるを得なくなる虞が高いことを指摘しておきたいと思います。


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内部通報制度(11)~通報・相談窓口の設け方は?

 内部通報制度の運用に際しては,コンプライアンス部などコンプライアンス確立に取り組む部署を定め,内部通報・相談窓口を設置することになります。名称は一般に企業倫理ヘルプライン,企業倫理ホットライン等と呼ばれることが多いといえます。

 また,コンプライアンス体制への責任を明確にする観点から,社内におけるコンプライアンス担当総責任者を定めるべきでしょう。一般にコンプライアンス部等の部長が当該責任者とされるケースが多いようですが,コンプライアンスへの取り組みの必要性が急務となるような企業では,有力役員がこの地位を兼任するケースも観られます。

 通報あるいは相談窓口については,通報・相談内容に応じた幾つかの窓口を併設する例が多いようです。例えば,部内での比較的軽微な相談については上司(報告は当該上司からコンプライアンス部にも行う),懲戒事由に渡るような案件についてはコンプライアンス部,そして現経営陣の不正に渡るような重大事案では,コンプライアンス委員会といった形です。外部相談窓口は,これらと並んで通報・相談受付窓口としての機能が期待されることになります。

 通報・相談受付部署と調査担当部署は一応別に存在しうるところではありますが,密接な関連を有するだけに,同一部署で対応する場合も多いと思われます。仮に併設するとしても,両者間の連携は重要です。なお,調査担当部署には,十分な調査能力と調査権限を付与し,社内的に当該部署による調査を拒むことがないよう事前に周知徹底を図るべきでしょう。


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内部通報制度(10)~規程・組織の整備の仕方は?

 まず,コンプライアンスの基本となるのは倫理綱領・行動基準などのコンプライアンスに関する基本理念の宣言であり,これを策定することからコンプライアンス体制の整備を始めることになります。これは企業のコンプライアンスのための憲法とでも言うべきものであり,社員が容易に理解し遵守できるよう,短めのものが望ましいと言えます。しっかりした基本理念を持たずに内部通報規程だけ定めてみても,「仏作って魂入れず」になってしまう虞があります。

 ところで,通報に関する規程・組織の整備に当たっては,内部通報をコンプライアンスの手段として積極的に活用するための,機動的な規程・組織作りを心掛ける必要があります。不正が内部的に浄化できないまま外部に伝わった場合には,企業が存亡の危機に立たされることを強く意識すべきです。

 規程・組織は経営陣が承認し,社内に周知させるべきものです。経営陣の積極的関与により,社内での内部通報制度の浸透も容易となり,機能も期待できることになります。その際,不当解雇・不利益取扱の禁止を制度として確立し,専門家のチェックを受けて内容の万全化を図ると共に,企業内の意見を十分に反映して企業風土に合った実用的なものにして頂きたいと思います。

 組織においては,通常の指揮監督体制と同じであっては,告発対象の違法行為が隠蔽される可能性がないとはいえません。特に重大な事案においてはコンプライアンス委員会など別に部署を設けて対処すべき必要性が高いといえます。


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内部通報制度(9)~社内告知・研修は?

いかに素晴らしい制度設計がなされても,実際に通報を行うべき社員に制度の導入・内容が十分に告知されていないと,それが機能することは期待できません。もちろん実際には,社内告知は相当程度行われているケースが圧倒的と思われますが,そこで散見されるのは,制度の存在は知っていても,「実際に通報するとき,どうしたらよいかが分からない」,「情報漏えいが心配」,「会社から不利益処分を受けるのではないか」,あるいは「敷居が高い」と感じていて,通報に踏み切れないといった声です。ここでは情報管理の徹底や不利益処分を課さないなど会社としてまずは公正かつ妥当な制度設計をすることが大前提となりますが,せっかく導入された制度を生かすために,効果的な社内告知・研修を実施しなくてはなりません。

その際,まず内部通報受付機関の守秘性については,実際に通報がなされた時どのような取扱いを受けるのか,通報担当機関での取扱いの流れと,そこでの守秘性の高さ(内部通報受付機関担当者の守秘義務の誓約など)を社員にしっかりと認識してもらうことが重要です。
また,社員研修においても,例えば当該会社において生じうる可能性のあるリスク事項に関する想定事例を設定し,社員に模擬実習的に通報を体験させるなど,内部通報が決して敷居の高いものではないことを知ってもらう必要があります(もちろん,その前提は,相談受付機関自体の敷居の低さであり,例えば本格的な通報と呼べるレベルには至らない相談程度の内容のものであっても,面倒がらずに真摯に受け止めることが重要といえるでしょう)。

これらの要件を満たした実効的かつ実践的な社内告知・研修の実施により,内部通報制度はいよいよその機能を高めることが期待されます。

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