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弁護士田島正広の“立憲派”ブログ

田島正広弁護士が、注目裁判例や立法動向、事件などを取り上げ、法の支配に基づく公正な自由競争社会の実現を目指す実務法曹としての視点から解説します。

中国におけるコンプライアンス事情

この夏は、訴訟の準備書面や原稿書きその他諸々の仕事に追われていましたが、その中、先日上海に内部通報制度の外部窓口設置のために出張してきました。その際、現地で幾つかの法律事務所の著名な弁護士(いわゆる律師)の方と、中国におけるコンプライアンスの現状と将来について意見交換しました。

中国といえば、偽物天国であり、日本の人気テレビドラマも放映翌日には中国語の字幕付きで安く店頭に並ぶとか。この国に、法令遵守さらにはその上の企業倫理遵守などあり得るのか?というのは正直な反応でもあります。その辺、現地の律師さんも、現状認識としてはまずは経済成長のために目の前のコンプライアンス違反はやむを得ない現状があることを認められた上で、しかし、公正なルールさえ設定されれば、コンプライアンスの遵守に向けた企業の取り組みが進むことも期待できないわけではないことを指摘していました。ここでは、自ら企業倫理に従った行動をすることが自由競争上不利になってしまう現状があることから、そのような不利がないように公正なルール設定をするべきという論になるわけです。

これと車の両輪になりそうなのが、J-soxならぬC-soxの導入の方向性でしょうか。法制度を導入するときのスピードはどこよりも早いのが中国です。C-soxによりコンプライアンス体制の確立がその要素として強調されることで、上場企業を中心にコンプライアンスが浸透する可能性は確かに否定できない印象があります。

そうは言っても、一度上海の街を見れば、地下鉄では降りる人を押しのけて乗車する人が多く、町中でも車は(日本と左右逆です)赤信号でも注意しながら右折できるところを、我が物顔で減速せずに右折してくるのが圧倒的で、むしろ歩行者が青信号なのに立ち止まってよけているなど、依然としてマナーのよくない状況ではありました。ただ、それでもマナー強化の観点から市政府の命令で人々が街に並ばせられる日があるそうで、その影響でしょうか、外国人旅行客の多い有名B級グルメ店などは、秩序だった行列があるのが印象的でした。漸進的でありながらも、変わりつつあるというところなのかなと感じました。

毒入りミルクや餃子の件では、世界的に「CHINA FREE」の傾向が広まりましたが、そのようなことでは総体としての中国の国際競争力が弱まるのは必然です。国策としてのコンプライアンスがどこまでスピーディーに浸透するか、今後が注目です。


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納税データ整理を「知り合い」に手伝わせるとは!?

和歌山県、納税データ整理を知人に手伝わせた男性主任を減給処分

【 (和歌山)県は2日、個人情報を含む納税データの整理作業を知り合いの民間人に手伝わせたとして、紀北県税事務所の男性主任(47)を減給10分の1(1カ月)の懲戒処分とした。また、管理監督責任を問い同事務所長(60)と次長(60)を訓告処分とした。】

(3日・産経新聞)

 報道によると,和歌山県の紀北県税事務所の主任が,表計算ソフトの操作に不慣れで,詳しい民間男性に2,3時間手伝わせたとのこと。発覚経緯は,別件の内部通報があり(そちらの事実関係は確認されなかったとのこと),調査の過程で本件が発覚したようです。

 納税データは,個人の財務情報として非常に重要な個人情報です。それが,何らの秘密保持義務も課されることなく,「表計算ソフトが不慣れ」という理由で(!?),しかも「知り合い」(!?)の閲覧に供されたということですから,これが事実であれば,真に嘆かわしい情報管理体制というほかありません。この人達は,自分が扱っている情報の価値というものをどう考えておられるのでしょうか。

 当然ながら,自治体には,情報管理体制の強化はもちろんのこと,表計算ソフト程度は満足に扱えるように指導を徹底して頂きたいものです。

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社内告発で制裁人事、オリンパス社員が人権救済申し立てへ

社内告発で制裁人事、オリンパス社員が人権救済申し立てへ

【 東証1部上場の精密機器メーカー「オリンパス」(本社・東京)の男性社員が、社内のコンプライアンス(法令順守)通報窓口に上司に関する告発をした結果、配置転換などの制裁を受けたとして、近く東京弁護士会に人権救済を申し立てる。
 男性の名前は、通報窓口の責任者から上司に伝えられ、異動後の人事評価は最低水準に据え置かれている。公益通報者保護法では、社内の不正を告発した従業員らに対し会社側が不利益な扱いをすることを禁じているが、男性は「こんな目に遭うなら、誰も怖くて通報できない」と訴えている。】

(27日・読売新聞)

 企業におけるコンプライアンス確立のために,内部通報制度は有用な制度として注目されています。法令・企業倫理違反行為を企業が内部的に早期に把握し,調査と改善による自浄作用を発揮することで,コンプライアンス体制の強化を図る趣旨です。

 しかし,せっかく内部通報制度を導入しても,通報者を不利益取り扱いしてしまうようでは,誰も怖くて通報などしないことでしょう。内部通報制度を生かすも殺すも,企業のコンプライアンス確立に向けた本気度次第なのです。「仏作って魂入れず」にならないようにして頂きたいものです。

 今回の事件は,まだ会社側の対応状況が報じられていないため,一方当事者の主張のみをベースとした断定は避けますが,そもそも会社内部の通報窓口への通報は,いかに匿名性を守るといってみても,現実的にそれが難しい場合が多いように思われます。仮に,会社側として不利益取り扱いを一切行っていない場合であっても,通報を行った社員からは,通報を理由とした不利益取り扱いがなされたのでは,との疑念を持たれやすいといえます。今回のような報道に接すると,匿名性の完全に保障された社外の内部通報窓口の併設という視点がさらに重要度を増していくように思われます。

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「名ばかり管理職」の指導強化=チェーン店の判断基準を通達-厚労省

「名ばかり管理職」指導強化 厚労省が店長らの判断基準


【 職務権限や待遇が不十分なのに管理監督者とみなされ、長時間働いても残業代が出ない「名ばかり管理職」の問題で、厚生労働省は9日、チェーン展開する飲食・小売業の店長らを対象に、管理監督者にあたるかどうかの具体的な判断基準を示す通達を全国の労働局に出した。個別の業種・業態について詳しい基準を示すのは銀行以来31年ぶりで、特に指導を強化することが狙いだ。】

(9日朝日新聞)

 「名ばかり管理職」の問題,すなわち,管理職の実態がないのに管理職扱いして,残業手当の支払を免れることなどが問題となるケースは近時頻発しています。マクドナルドやコナカの事件は記憶に新しいところですが,近時の裁判例は,社員が管理職(正確には,労働時間・休憩・休日の規定が適用されないところの,「監督若しくは管理の地位にある者」(労基法41条))として扱われるための要件として,(ア)経営方針の決定に参画し,あるいは労務管理上の指揮監督権を有するなど,その実態から見て経営者と一体的な立場にあること,(イ)出退勤について厳格な規制を受けず,自己の勤務時間について自由裁量権を有すること(以上,静岡銀行事件における静岡地判昭和53年3月28日),(ウ)非管理職社員との賃金格差(以上,マクドナルド事件に関する東京地判平成20年1月28日)などの諸要素を考慮しています。

 すなわち,管理職として認定される場合とは,(ア) 本社での経営会議に恒常的に出席しているか,あるいは支店レベルで広範な人事管理権が与えられているなどして,会社の経営自体に参画していると評価できる実態があり, (イ) 自身の出退勤管理も自ら行っていて,本社の指揮監督を受けていない場合であって,さらに(ウ)非管理職社員との賃金格差も相当程度の開きがあるような場合と解されている訳です(前掲マクドナルド事件判決)。

 報道によれば,今回の通達では,「管理監督者性を否定する重要な要素」,「否定する補強要素」として,具体例を次の通り列挙しています。

 (1)職務内容や権限では、重要な要素として「パートやアルバイトなどの採用権限がない」や「パートらに残業を命じる権限がない」こと。

 (2)勤務時間では、重要な要素で「遅刻や早退をした場合に減給などの制裁がある」こと。補強要素で「長時間労働を余儀なくされるなど,実際には労働時間の裁量がほとんどない」こと。

 (3)賃金は,重要な要素として「時間あたりの賃金がパートらを下回る」こと,補強要素として「役職手当などが不十分なこと」など。

 これらは,先の裁判例が示した基準にも相応するものであり,基準自体もいうようにこれらの事情を総合判断することになります。「名ばかり管理職」の是正は,労働基準法の潜脱防止による適正な雇用関係の確立の場面であり,企業にとってはまさにコンプライアンスが試される場面といえます。現代は,コンプライアンスを失した企業が容易に市場からレッドカードを受ける時代です。すなわち,遵法経営こそが効率経営をよりよく達成する手段であり,株式価値の最大化のためにはコンプライアンスの達成が不可欠といえます。企業経営に携わる方々には,この点をぜひご理解頂きたいものです。

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採血器具の使い回し事件に観る医療行政の甘さ

採血器具使い回し、半数の1万1700施設…厚労省調査

【 針付き採血器具の使い回しが相次ぎ発覚した問題で、厚生労働省が同種器具の1991年以降の使用実態を調べたところ、器具を使っていた全国の病院や診療所約2万2500施設の半数以上に当たる約1万1700施設が使い回しをしていたことが6日、明らかになった。】

(8日読売新聞)

 今回の調査によると、全国の病院中、この器具を使っていた約5000施設の66%に当たる約3300施設が、複数人に使い回す不適切な方法で使用していたとのことです。しかも調査未回答の病院も多く,実際にはもっと高いパーセンテージの施設が使い回しをしていた可能性があるとのことです。

 「針を替えても針周辺に血液が付着している可能性があり、血液感染を避けるため、複数人には使い回さないよう添付文書に明記されている。」とのことですから,血液感染の虞が懸念されていることは明らかであり,幾たび患者の悲劇を繰り返しても気づかない医療行政の甘さが,またしても露見した格好です。健康な方でもいつ病気に苛まれるか分かりません。いざというときに安心な医療現場でなくてはならない訳で,患者の視点に立った医療行政の確立を強く求めたいものです。

 なお,厚生労働省としては,8日正午に関係施設名をホームページ(http://www.mhlw.go.jp/)で公表するとのことです。

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