弁護士田島正広の“立憲派”ブログ

田島正広弁護士が、注目裁判例や立法動向、事件などを取り上げ、法の支配に基づく公正な自由競争社会の実現を目指す実務法曹としての視点から解説します。

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会社法改正法案における企業統治のあり方の見直し

 会社法改正案が4月25日衆議院で可決され,参議院での審議に付されることになりました。この改正法案は内閣提出法案であり,衆議院での修正も微修正に留まったので,参議院の審議・採決もスムーズに進むことが予想されます。この法案は,その立法理由にもある通り,株式会社をめぐる最近の社会経済情勢に照らして,社外取締役等による株式会社の経営に対する監査等の強化,さらには株式会社及びその属する企業集団の運営の一層の適正化等を図ることを目的として,次のような改正を図るものです。すなわち,
(1)監査等委員会設置会社制度の創設
(2)社外取締役等の要件等の改正
(3)株式会社の完全親会社の株主による代表訴訟制度の創設
(4)株主による組織再編等の差止請求制度の拡充等
等です。

 このうち,(3)完全親会社の株主による代表訴訟制度(いわゆる多重代表訴訟制度)創設と(4)組織再編等の差止請求制度の拡充等は,会社法制定後これまで指摘されてきた企業統治における制度の空白に対処し,企業統治の充実を期待するものです。また,(1)監査等委員会設置会社制度と(2)社外取締役等の要件の改正は,実務上も上場企業を中心に徐々に進んでいる独立役員の登用による企業統治の変革をさらに進めて,社外取締役の任用を進める趣旨を込めたものです。

 改正法案においては,社外取締役に関しては,監査等委員会設置会社の監査等委員である取締役は3人以上とされますが,その過半数は社外取締役とされています(会社法改正案331条6項)。そして,大会社で監査等委員会設置会社でない場合には監査役会設置が義務付けられると共に(会社法改正案328条),監査役会設置会社で金融商品取引法24条1項により有価証券報告書提出を義務付けられている会社は,社外取締役を置かない場合には,それを置くことが相当でない理由の開示が求められることになります(会社法改正案327条)。この点,当初は社外取締役の法的義務付けが議論されていたところではありますが,それ自体は経済界の反発もあって見送りとなったこともあり,今回の改正法案では企業統治の強化には不十分との評価がある一方,この改正法案でも上場企業に社外取締役を置くことが「事実上」義務付けられたとの評価も観られるところです。

 思うに,日本経済の低迷期を経て,国内企業の外国進出による産業構造の変質化や弱体化した国内資本に替わる外資の位置付けの高まり等を受けて,ヒトモノカネが国境を超えて目まぐるしく行き交うグローバリゼーションがいよいよ進行しています。EPAやFTA,そしてTPP交渉等の自由貿易交渉の進展はこの流れを象徴するものです。まさに,外資の投資対象となるべきグローバルスタンダードな経営でなければ企業価値の最大化が図れない時代を迎えたと言えます。性悪説に立った内部統制は,企業活動のリスクに対する予防策・抑止力として重要な機能を有するものとなっています。

 また,物質的に満たされ,それ以上に生活の質を求める時代にあって,品物の原材料や品質,製造元に関する国民の意識は高まり,消費者保護の進展も相まって,企業のコンプライアンス違反に対する批判はより直接的かつ強固なものとなっています。終身雇用制の崩壊による人材の流動化は,自身のキャリアアップに否定的な評価となる不祥事への妥協を許さないところとなり,内部告発がより誘発されやすいところともなっています。近時の企業不祥事の露見の数々は,コンプライアンス違反の不祥事が,もはや隠蔽することのできない時代となったことを証明しています。まさに,コンプライアンスを遵守した経営こそが,経営資源を本来の営業戦略に集中させ得るものといわざるを得ません。その際,社外取締役の任用を企業側がどのように受け止め,そして積極的に活用できるかは,企業の永続的発展の鍵と言えるでしょう。

 実務における社外取締役・社外監査役の選任状況としては,各証券取引所で独立役員の届出が求められ,特に東京証券取引所では独立役員を1名以上確保することを企業行動規範の「遵守すべき事項」に規定していることもあり,90%超の上場企業では少なくとも1名以上の独立役員を確保しているとの統計データも公表されていますが,その一方でそこでいう独立役員とは,全上場企業中4分の3の企業では社外監査役であって,社外取締役を選任している企業は4分の1に留まる事が報告されています(やや古いデータですが)。

東京証券取引所:
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g100819a03j.pdf
大阪・名古屋・福岡・札幌各証券取引所:
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g100819a04j.pdf

 社外取締役に本来期待される独立的な立場からの経営判断を,社外監査役の意見を取締役が尊重することで実現しているとするコーポレート・ガバナンス報告書の記載例は多く見られるところですが,不祥事事例等を見るとき,やはり取締役と監査役の立場の違いを意識せざるを得ないことがあります。

 今回の改正後も,上場企業の多くが「社外取締役を置かないことを相当とする理由」の起案にやっきになるようでは,改正法の趣旨は空洞化されることになります。確かに,内部統制システムの運用やコンプライアンス体制の堅持は1円も生まないのは事実です。しかし,それは野球に例えれば,いかにしっかり守っても1点も取れないと言っているのと同じことです。逆に言えば,しっかり守っていれば,1点取れば勝てるとも言えます。いくら営業が頑張って成果を挙げても,内部統制の崩壊やコンプライアンス違反で失点を重ねるようでは企業業績は挙がりようがないでしょう。勝利の連鎖が生み出す士気の高まりと,反対に敗北の連鎖がもたらす厭戦的な機運の先に何があるかは明白でしょう。コンプライアンス遵守の福利は,実は当該企業自身が最もよく享受できるものであること,その結果はもちろん当該企業の株式価値の最大化であり,その先にあるのは企業の永続性の確保であることを強調しておきたいと思います。

                                               
弁護士 田島正広

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