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弁護士田島正広の“立憲派”ブログ

田島正広弁護士が、注目裁判例や立法動向、事件などを取り上げ、法の支配に基づく公正な自由競争社会の実現を目指す実務法曹としての視点から解説します。

明けましておめでとうございます

明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いします。

振り返れば、昨年は大震災というキーワードなくしては語れない年でした。被災地の農産物等て風評被害を生じたのはもとより、国際的にも誤解に基づくとしか思えない風評被害をこの国自体が受けた時期もあったように思います。一億総被差別体験とでも評すべき状況だったのかもしれません。

人権を語るときには、少数派の立場の方への思いやり、彼らの置かれた状況への想像力が重要と、よく説かれます。多数派に属している限り、少数派の苦労は実体験で経験することはないからです。これが欠如するとき、いわれなき差別が顕在化することでしょう。この意味では、昨年の不幸な経験を通して、不合理な差別のなんたるかを否応なしに知らされてしまったとの思いです。こうした経験を今後にいかに生かせるかが重要であると痛感しています。


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日本人死刑執行に見る日本政府の人権感覚

「残念」も中国に新たな懸念表明せず 死刑執行で政府

【 日本政府は中国当局が日本人死刑囚の刑を執行したことについて、「残念」(鳩山由紀夫首相)としながらも、中国側に新たな懸念などを表明することはなかった。
 首相は6日夕、記者団に対し、「司法制度が違う状況の中で(刑罰が)厳しすぎるという思いはあるが、このことで日中に亀裂が入らないように政府としても努力する」と述べた。】

(6日・産経新聞)

自由主義と民主主義に由来する罪刑法定主義の意味するところとしては,罪刑の均衡が挙げられます。それは各国の主権を前提にする国内法制に基づくものである限り,一見すると各国の事情に基づく均衡のようにも見えます。しかし,何故に国連が国際人権規約を定めたのでしょうか。それは人権というものは現代国際社会においては普遍性を持つべき概念であるとの前提があるからです。

中国が同規約を受け入れているかどうかとか,あるいは中国国内の人権保障が法律の下のそれでしかない,などという相手国の事情は,我が国の主権と国民の保護の観点からはどうでもよいことです。我が国は近代人権国家なのですから,近代刑法の大原則である罪刑の均衡を主張すればよいだけのことです。薬物の営利目的所持等が死刑に相当する犯罪ではないという国際社会の常識を主張すればよいだけのことです。相手国の国内事情に配慮して,国民が不当に死刑になっても本気でものを言わないというのは,人権国家の政府のありようなのでしょうか。私は大いに疑問を持っています。

思えば,安政の不平等条約において,日本は列強から治外法権を押しつけられました。日本で外国人が犯罪を犯しても,日本の裁判所では裁けない訳です。それは日本に近代的な裁判システムがないことが理由だったはずです。それなら,人権保障がなく,罪刑の均衡もない刑法を持ち,密室司法で裁判の公平・公正の担保もない国は,同様のことが言えるのではないでしょうか。もちろん,現代において治外法権など求める訳もありませんが,少なくとも人権国家日本の政府としては,超法規的手法によってでも国民を保護すべきであったし,それがかなわなかったのであれば,よほど真剣に抗議するのが筋というものです。

今回の死刑執行は,毒入り餃子事件の犯人検挙と実にタイミングがよかったですね。中国が毒入り餃子事件で大国としてのメンツを失い,日本にひれ伏すような印象を与えることのないよう,バーターで執行されたように思えてなりません。そうであればあるほど,外交大国を目指して,日本は言うべきことを言うべきではなかったのでしょうか。未だNOと言える日本になっていないとの印象をぬぐい去ることができません。


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憲法と「想像力」

先日,ある憲法に関する講演会で,伊藤真先生(弁護士・伊藤塾塾長)のお話しをお聴きする機会がありました。伊藤先生といえば,立憲主義に立脚した護憲派の論陣として著名な方です。伊藤先生には,当職も講師を務める慶応大学法学部の法学研究科の講義で大変お世話になっているのですが,じっくりとお話しをお伺いする機会はなかなかなく,先生単独でのご講演となると初めてのことでした。

伊藤先生は,憲法を学ぶ上で,「共感力」,「他者への思いやり」が問われるとおっしゃいます。なるほど,国家権力を拘束して国民の人権保障を達成するという立憲主義の拘束規範性の側面は,現代の民主主義国家においては,権力を握る多数派の国家権力行使に対する,少数派の人権保障のための歯止めとして機能することになります。ここまでは当然のことなのですが,伊藤先生は,多数派に属している人にとっては,少数派の方の人権のあり方について一般に無関心であるという点を指摘されました。一般論として言えば,多数派はその要望が少数派よりも満たされている訳ですから,比較的虐げられている少数派の状況について関心を寄せないのは,むしろ当然かも知れません。だからこそ,多数派に属している人が,少数派の人たちをいかに想うことができるか,その「想像力」こそが人権保障の場面では問われるというのです。

私も,事ある毎に,個人の尊重とは,対国家との関係での自分の尊重のみならず,私人間同士でのお互いの尊重をも意味するものであると説いています。自身が至高の存在であるならば,目の前にいる他人もまた至高の存在として,尊重しあうべきものなのです。本来,難しい憲法論議などするまでもなく,隣人同士の互いの思いやりが常識として存在するべきといえるでしょう(それがかなりの部分で失われてしまった現代社会に失望するところは大きいわけです)。このように,憲法を考える上で「思いやり」が大切ということは伊藤先生と全く同意見なのですが,何らかの問題が起こり,自分が多数派に属しているような時ほど,少数派の方のことをどれだけ思いやってきたのか,なるほど改めて考えさせられます。「想像力」をキーワードに挙げられた伊藤先生のご講演には,大変感銘を受けた次第です。

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顔写真の無断掲載広告問題

顔写真:無断で広告に CD販売、回収不能--東京の業者

【 商業目的への利用などについて十分な説明のないまま撮影された一般市民の顔写真を、東京の写真素材製造販売会社がCD化して販売し、収録された顔写真を使用した広告主と被写体の間でトラブルが頻発している。勝手に写真に手を加えた例や事実無根の広告に使用したケースもあり、同社は販売を中止。しかし、既に出回ったCDの回収は不可能で、被害は相次いでいる。肖像権を無視した「顔写真ビジネス」のモラルが問われそうだ。】

(4日毎日新聞)

皆様,新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い致します。

さて,写真入の年賀状を頂くのは,相手の近況が身近に感じられてよいものですが,今回は相当数の顔写真が収録されたCDが販売され,それを入手した業者が商品の広告にCD収録の顔写真を無断掲載したとのこと。顔写真を提供した側としても,どこまでの利用を許諾していたのかの問題があるほか,全く利用経験のない商品の効能を自分の顔写真に適当な名前・肩書き入りで紹介していたとなれば,詐欺的商法に自己の写真が利用されたことにもなりかねません。

CDはもはや回収困難とのことですが,デジタルコンテンツは流出を止めることが困難なので,そもそも撮影に応じないとのスタンスを取って頂くのが最も手っ取り自衛策なのでしょう。

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「脳活動からの画像再現技術」とその方向性

人が見た文字・図形、脳活動から画像再現 ATRなど 

【 脳の活動を観察し、人が見ている文字や図形を画像として再現する技術を、国際電気通信基礎技術研究所(ATR、京都府精華町)などの研究グループが開発した。基礎研究段階だが、将来は人が思い浮かべている夢やアイデアを画像化して見ることができる可能性があるという。
 研究成果は米国の学術誌ニューロンの11日号に発表した。】(11日・日経ネット)

 
 医学的には大変な進歩なのでしょうし,言語機能を始め脳に障害をお持ちの方には朗報になることと思いますが,人権の視点から見るときには,この技術の方向性には一抹の不安を覚えるところがないとはいえません。

 例えば,科学的捜査方法として,この手法が活用されるとしたら,それは鑑定によるのか,(まさかとは思いますが)捜索差押えによるのか,それによる鑑定結果の信用性はいかに評価されるのか,それをどうすれば争えるのか。あるいは,さらに技術が進歩して,面談しているだけで,密かに相手のウソが分かるような時代になったら・・・。もちろん,それをいかにブロックするかの技術も同時に進歩するのでしょうけれど。

 医療の分野においては,常に技術と倫理の接点において,技術の管理のあり方が問われることになりますが,この技術も,その進歩次第ではまさにそのような観点から議論が必要なものになるのでしょう。

 それにしても,生命の神秘が一つずつつまびらかにされることが人類の発展にとって大いなる一歩であることは間違いないのですが,同時に全てがデジタル化されることによる空しさを感じてしまうのは私だけでしょうか。

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